4月1日(火) 晴

今日から消費税が5%から8%になるのをうけて、「甘栗むいちゃいました」も150円から160円になった。私は帰宅時に、「甘栗むいちゃいました」を求めることが多い。缶ビールを一杯、という感覚と似ているかもしれない。日記を付け始めてから、ちょうど1年が経過した。昨年の今日の出来事を振り返ると、六本木での打ち合わせに遅刻したようだ。


4月5日(土) 晴

午前、新幹線で名古屋へ。器を中心にギャラリーを運営するhaseの浅井賢一さんが『荒野の古本屋』のイベントを企画してくださった。haseは名古屋駅から徒歩10分、ミッドセンチュリーの趣き漂う花車ビルに入居している。ちょうど木工作家の小山剛さんが展覧会をしているので、まずは展示を拝見。三角錐のオブジェを一点求める。その後、カリグラファーの浅岡千星さんと面会。名古屋でもうまいと評判のてんむすを差し入れにいただく。私はてんむすに目がない。一気に3つ頬張る。こういう時は、口の周りに海苔がついていないかを確認しないといけない。以前、あるイベントの前にチョコレートパフェをぱくつき、終了後、口の周りにチョコがついているのを知って愕然としたことがあった。鏡の前に立ち、口の周りと歯をチェックする。
トークショウのあとは、東山の書店ギャラリーON READINGへ行く。オリジナルのバッジを求める。その後、本山に移動。名古屋在住の写真家・江本典隆さんが推薦する味仙へ食事に行く。大阪から来てくださった画家の植田志穂さんとiTohenの鰺坂兼充さん、名古屋在住の製本家の都筑晶絵さんと合流。名物の台湾ラーメンをいただく。予想以上に辛く、額や頭から汗が吹き出て困る。おしぼりで顔を拭きたくなる……。明日は岡山・児島のKAPITALでの古本市に参加する予定。岡山行きの新幹線が出ているうちに岡山へ向かう。岡山駅前のビジネスホテルに宿泊。


4月6日(日) 曇のち雨

朝、ホテルを出ると非常に寒い。私は瀬戸内は温暖に違いないと判断し、Tシャツ一枚しか用意してこなかった。冷たい雨も降り出し 、これではガチガチと歯が鳴って店番が務まらない。児島のKAPITALに到着するや否や、厚手のシャツを一枚求める。今日は一日中、KAPITAL内の書店にて店番の仕事。徳島から足を運んでくださった方がたくさんの本を買ってくださる。本当にありがとうございます。夕方の新幹線で東京へ。岡山駅構内の移動にだいぶ慣れてきた。社内で名物の笹鮨求める。名古屋駅を出たあたりで、温かい珈琲をいただく。東京駅に到着して席を立とうとしたら、ずっしり腰が重い。寒さで身体がこわばったようだ。服装の見通しがあまかったと言う他ない。


4月7日(月) 晴

昨日の腰の重さがなかなか取れないので、夜、中野の行きつけのプールで泳ぐ。入念なストレッチも行うが、腰の違和感は取れない。


4月10日(木) 晴

午前、銀座の某所にて企画の打ち合わせ。ランチに築地場外市場のえび金で海老そばをいただく。780円。午後、某美術館学芸員のT氏がご来店。先月アメリカに学術調査に行った土産話に、マンハッタンの高級マンション・ダコタハウスの一室を訪れたときのことを伺う。あふれんばかりの重要なモダンアート作品に腰を抜かしそうになったそうだ。エレベーターには革張りのソファーが置いてあるそうなのだが、抜けた腰を癒すためか。


4月17日(木) 晴

午前、某誌の取材のため、恵比寿の歩粉へ行く。歩粉を運営している磯谷仁美さんがこれまでに読んで影響を受けた本についてお話を伺う。夜、丸の内の東京会館で木村伊兵衛賞式に参加する。長嶋友里恵さんが選考委員を代表してスピーチ。「最終選考に残った作品は、どれも一見しただけでは何かわからない。背後にある物語を読まなくてはならない」(大意)とおっしゃったところが印象に残る。深夜、蔵前のカワウソへ行き、少々お酒をいただく。


4月18日(金) 晴

夕方、Coci la elleのひがしちかさんが娘のいろはちゃんとご来店。近所のPRONTでジュースを飲みながら、イベントの打ち合わせをする。いろはちゃんと自分の娘が一つしか違わないので、今度一緒に公園で遊ぶ約束をする。夜、ミヤワキモダンの宮脇誠さんと近所のやきとりの名店・鳥健へ行く。いつもお世話になっている堤純一さんも合流し、来年開催する古道具展の打ち合わせをする。名物の鳥雑炊をいただく。


4月19日(土) 曇

某社より「わびさび」についての原稿依頼を受ける。さて、何について書こうかと考えて、長谷川等伯《松林図屏風》を思い出す。
10年ほど前、私は東京国立博物館の薄暗い一室で、偶然、長谷川等伯の《松林図》に出会った。以前からカタログなどを見ては、なぜこの絵が国宝なのか理解できなかった。何の変哲もない水墨画にしか見えていなかった。しかし、実物と対峙して、その印象はくつがえされた。闇に現れた数本の松は、この世のものとは思えない気配を漂わせた。松の間から先祖の霊がいまにも現れるかのような。彼岸の世界が目の前に広がっているような。私は、動くことができなかった。
薄暗い部屋は、「安土桃山時代の家屋の光を再現」したものだった。つまり、光量が変わると、《松林図屏風》は姿を変える。《松林図屏風》が国宝たる所以がわかりかけた瞬間だった。換言すれば「わびさび」を感じた瞬間とも言えるかもしれない。動けなかったのは、恐ろしくも、美しかったから。そういえば、今日も曇っている。


4月21日(月) 曇

午前、某誌の取材のため、門前仲町のwatariへ行く。watariを運営している小林紀子さんがこれまでに読んで影響を受けた本についてお話を伺う。
午後、「日本の古本屋」のメールマガジン原稿を、かつて神保町にあった松村書店の松村さんをテーマに書く。松村さんのことをあれこれ思い出す。
神保町交差点付近の靖国通り沿いにあった松村書店は、洋書の美術書の専門店だった。松村さんは、とにかく毎日笑顔で、愛犬のハナをいつもそばに寄せていた。社屋は3階建。お店の玄関が、靖国通りよりも若干低い位置にあるため、雨の日はよく早終いをしていた。植草甚一さんが、本に書いてある価格を消しゴムで消して、勝手に独自の価格を記入し ていたという逸話も残されている。松村さんの笑顔は、いま思い出しても、松村書店のおおらかな雰囲気をよく表している。


4月22日(火) 曇

午前、日本橋コレドのユナイテッド・アローズにて、25周年記念モデルのシャツを購入する。お会計の際、隣にいたお客さんがカード決済をしていて、「お支払い回数は」という問いに、「一回で」と答えた。これまでも何度か聞いたフレーズではあるが、何だか気になって支払いの単位について考えてみた。「一発払いでお願いします」というとちょっとおもしろい。「三段払いでお願いします」では意味不明。柔道の技をかけているようだ、などと。そのあと、SOUP STOCK TOKYOにてボルシチとオマールエビのスープをいただく。


4月23日(水) 晴

夕方、お客さんからお土産に、好物の千疋屋のサンドウィッチをいただく。古風なパッケージが美しい。部屋の外の流し台で頬張る。夜、外苑の東京藝術学舎にて、鈴木芳雄さんが主催する「写真集」の講座に登壇させていただく。木村伊兵衛の写真と「手」の関係を中心に、鈴木さんと2時間ほど話をする。終了後に受講者と一緒に信濃町の某中華料理店へ。中華料理店なのに鯖の味噌煮がメニューに載っている。思い切って注文してみる。


4月24日(木) 晴

午前、某誌の取材のため、神楽坂のラ・ロンダジルへ行く。ラ・ロンダジルを運営している平盛道代さんがこれまでに読んで影響を受けた本についてお話を伺う。
そのあと茅場町へ向かう途中、丸の内の丸善に立ち寄り、永井荷風の『断腸亭日乗』を求める。この本を購入するのは、何度目だろう。永井荷風自身が写真を撮影している記述がないか、ページをめくる。


4月26日(土) 晴

午後、赤坂のTBSへ向かう。『久米宏のラジオなんですけど』で、30分ほど久米宏さんと話をさせていただく。はじまる前の簡単な打ち合わせでは、自分に関するおよそ100個もの質問が用意されていて驚く。しかも久米さんは、小著を読んでくださっているという。誠実な仕事、というのもおこがましいが、これまでずっとそうしてきたのだろうと考えると、確固たる実績を残こし、また、70歳の現在も活躍できるわけが分かったような気がした。番組の冒頭で「なぜスキンヘッドなのですか」と訊かれ、思わず答えに窮する。


4月27日(日) 晴

朝、「なぜスキンヘッドなのですか」と訊かれたとき、しっかり答えられるようにしておかなければならないと思い、考えを巡らす。「永久脱毛しました」といったらおもしろいのではないか、などとバカなことを思う。


4月28日(月) 晴

午前、某誌の企画で、デザイナーの大図まことさんからインタヴューを受ける。大図さんは、ゲームのキャラクラーをクロスステッチという刺繍技法で表現している。お会いするのは3回目だが、久米宏さんに匹敵するほど入念に小著を読んでくださっていて、次々に質問していただく。大図さんありがとうございます。


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森岡督行 yoshiyuki morioka

「森岡書店」主人。1974年山形県生れ。著書に『BOOKS ON JAPAN 1931-1972 日本の対外宣伝グラフ誌』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『写真集 誰かに贈りたくなる108冊』(平凡社)、『荒野の古本屋』(晶文社)、『東京旧市街地を歩く』(エクスナレッジ)など。「青花の会」編集委員。
facebook:yoshiyuki.morioka.7


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