5月1日(金) 晴

今日は家族で奈良旅行。朝、東京駅から新幹線に乗って京都駅へ。近鉄に乗り換えて奈良駅へ到着。奈良公園で鹿せんべいを鹿に手渡しながら、興福寺を拝観。東大寺まで歩き、南大門をくぐる。奈良の大仏を参拝するのは、高校の修学旅行以来。ここでも鹿せんべいを求めて鹿に手渡す。夜、ライトアップされた興福寺の五重塔を見て、天から放たれた太古のエネルギーを享受したような気分になる。これを今後の糧にしたい。夕食に天ぷらうどんと泉州なすの漬物をいただく。奈良ホテルに宿泊。


5月2日(土) 晴

朝から暑い。奈良ホテルを後にして、薬師寺と唐招提寺と法隆寺を回る。唐招提寺の前でアイスクリームをいただく。日差しが強く木陰を選んで歩く。お土産に、柿の葉すしを購入。夕方の新幹線で東京に戻り、銀座の店舗に直行。工具類の後片付けをして、少しでもかたちを整える。近所のセブンイレブンで久しぶりにハーゲンダッツアイスクリームを求める。


5月3日(日) 曇

午前、鈴木ビル前、施行業者が先日取り外した半円形の看板を再設置に来る。午後、編集者の藤田容子さんと鈴木ビル近所のルノワールで打ち合わせ。『形の素』の販売会を行うにあたって、搬入の時間や、掲載されている写真の出力をどうするか、売れた場合の掛け率についてなど詳細を詰める。ちなみにルノワールが入っている竹田ビルも、近代建築として素晴らしい。午後、飛松さん到着。ランプを店内に設置していただく。夕方、発注していたトートバッグ400枚がようやく届く。明日の什器搬入に向けて店内の清掃を行っていると、J-WAVEの「東京モーニングレディオ」の方から連絡があり6日の朝に別所哲也さんと対談することになる。夜、飛松さんのランプが灯って、外から見ると、ビルと世界がつながったように思えた。


5月4日(月) 晴

午前、トラックに積まれてテーブルとカウンターが到着。テーブルは予想どおりの線の細さで、素晴らしい。寸法もぴったり。Krankの藤井さんのおかげです。次にカウンターを搬入。ところが、高さのバランスがよくない。高すぎて、空間全体を圧迫している。外から見てもやはりカウンターの存在感が大きすぎる。至急対応策を考えなければならない。茅場町からテーブルを移動し、新しいカウンターは地下の田中さんのところに保管してもらう、おそらくこれが今出来る最善の策だろう、と逡巡していたら、あるお客さんが店内に入ってきた。
お客さん「ここ、森岡書店ですか?」
森岡「はい、そうです。明日がオープンです。ただ、今カウンターを入れてみたらバランスが悪くってすごく困ってます。時間的に追い込まれています」
お客さん「下から二段、切ればいいですよ」
森岡「そんなことできるんですか?」
お客さん「ええ、できますよ。切ったらぴったりです」
森岡「切ってください」
私はすがるような気持ちで言った。
お客さん「いいですよ。ノコギリありますか?」
森岡「ないです」
お客さん「じゃあ、これ買ってきてください、Zソウ265番縦斜め切り」
私はそのメモを握りしめ、東急ハンズ銀座店に走った。東急ハンズ銀座店で係の人にそれを渡すと、すぐに該当のノコギリを出してしてくれた。それを求めて走ってきた道をまた鈴木ビルへ向かって走った。途中、私はルパン三世の石川五エ門を思い浮かべていた。斬鉄剣の代わりにこのノコギリで、銀座の建ち並ぶビルをなぎ倒しながら走っているような。あのカウンターを必ず切り落とすと。鈴木ビルに到着してその方にノコギリを手渡すと、カウンターを縦に反転させ、下部二段を切り始めた。私はカウンターがグラつかないように抑える。およそ20分。カウンターの下二段がスパッと切り落とされた。再び設置してみるといかにもバランスが良い。外から見てもぴったり。その方は「また来ます」と言って名乗りもせず立ち去った。入れ違いで沖潤子さんが搬入にご来店。こうして何事もなかったように沖さんの作品の飾り付けがはじまった。夜、書籍も文藝春秋社から届く。全てが整ったのは午前2時くらい。これで明日無事に開店を迎えられる。


5月5日(火) 晴

朝、大手町の将門塚を参拝。鈴木ビルの前で店舗の外観を撮影。11時に丸の内のPASS THE BATONに行き、お釣りのお皿を探す。レジで実際につかっている受け皿が銀座の店舗にあいそうなので、試しに「これを売ってもらえませんか」と聞いたら、快く「はい」。それを求めて鈴木ビルに戻る。完成した店舗を見て思った。こんなことして本当に良かったのかと。「一冊の本を売る書店」で私は本当にやっていけるのだろうかと。無謀な計画なのではないだろうか……急に不安になる。いよいよ13時の開店。沖潤子さんも御来店。同時にたくさんのお客様が駆けつけてくださる。最初に入って来てくださったのは名古屋のhaseの浅井さんだった。遠山さんも駆けつけてくださるが、まさか遠山さんにはそんな不安は言えない。遠山さんの着ているヨレヨレのスウェットが素敵に見えたので、「それはどこのですか」 と尋ねると、「高校時代から着ているケントのもの」。渡邊康太郎さんが持ってきてくださったシャンパンを開けて乾杯。スマイルズの松尾副社長がお見えになったのでお礼の挨拶をする。沖さんとお客さんの会話も弾んでいる。お客さんとして御来店くださった飛松夫妻が、いつの間にかレジに入ってくれている。


5月6日(水) 晴

朝、六本木ヒルズへ。一階のスターバックスコーヒーの前で担当の方と待ち合わせてJ-WAVEのスタジオへ向かう。別所哲也さんとご挨拶をし、銀座の店舗の取り組みや今後の抱負などを話す。終了後、一階のスターバックスコーヒーにて『東京旧市街地を歩く』の序文を書く。20W×84L。日比谷線に乗って東銀座で下車。2日目の開店の準備をしていると沖潤子さんがご来店。開店と同時にたくさんのお客さんに恵まれる。今日も本の中にお客さんをお迎えするイメージ。


5月7日(木) 晴

午前、星新一さんが残した写真を拝見するため、高輪の某マンションへ。写真だけでなく、書斎の蔵書も手に取らせていただく。銀座に戻り、ランチにチョウシ屋のコロッケサンドをいただく。今日も沖潤子さんと一緒にお客様をお迎えする。今日で3日目だが、既にたくさんのお客様にご来店いただき、コンセプトにも賛同してもらっている。夕方、アパレル某社のK氏が御来店。来年にオープン予定の旗艦店の内装について相談する。


5月9日(土) 曇

夜、沖潤子さんのトークイベントを行う。最近食べているものについて質問すると沖潤子さんは「にんじん」と即答。


5月10日(日) 晴

夕方、ある方がご来店。私の目をじっと見ているので、なんだろうと思ったら、「メガネのネジ浮いてます」。確かに、ネジが5ミリほど上に出ていて、いかにも外れそう。その方は、「あ、トークショーの最中で外れたら面白いね」とおっしゃる。その状況を想像してみると、確かに面白いが、そんな状況は味わいたくない。愛用のメガネだが、新しいのを試してみるのもいいだろう。店舗も新しくなったことだし。3月に山口でお会いしたカピン珈琲の亀谷さんのレスカが素敵だったことを思い返す。


5月13日(水) 晴

午前『Oz magazine』に取材を受ける。店舗の外観とポートレイトを撮ってくださるのは、川島小鳥さん。お昼に近所の「流石 凛」にてきざみうどんをいただく。


5月15日(金) 晴

営業終了後、有楽町の阪急のメガネ売り場を散策。レスカはないようだが、杉本圭のメガネに惹かれて試着する。ぼやけていて自分の顔がわからないが、店員の方の「大変お似合いですよ」の言葉を信じる。レンズは一番厚いものを選ぶ。「なぜですか?」という店員の方の質問に、「ぐるぐるになっているのがいいんです」と答える。


5月16日(土) 曇

午後、沖潤子さんの展示にお見えになったお客様から、近所に北欧の雑貨を扱うお店があると聞き、早速訪ねる。およそ徒歩1分。落合シェフの「ラ・べットラ」の近所。ビルの2階。お花が刻まれた銀のバッヂを求める。


5月19日(火) 曇

本日で沖潤子さんの展覧会が終了。文藝春秋の『PUNK』は151冊が売れた。予想以上の売り上げで、沖さんと喜びを分かち合う。これが最初の展覧会なので、ご祝儀という面もあるのだろう。これからも頑張れという励ましの意味もあるだろう。帰り際に大手町まで歩き、将門塚を参拝する。


5月20日(水) 晴

開店第2週目の展覧会は、写真家の湯沢薫さん。湯沢さんの写真集の『幻夢』を取り扱う。この写真集の序文を、今年3月に書かせていただいている。湯沢さんは、自らを写真家ではないと考えている。湯沢さんは予め心の中にある白昼夢にも似たイメージが現実に現れたとき、それを写し撮る。そのイメージは、「空想」の中にあって、無意識の深いところから湧いてくる。なぜ湧いてくるのかは、湯沢さん自身にも理解できていない。大事なことは、輪郭のぼやけたイメージが現実の中に可視化されたときにのみ、静かにシャッターを切るということ。湯沢さんは、空想の世界と現実の世界を行き来するというべき性質が、生まれながらに備わっている。現実を撮っていながら、 「空想」を見ている。


5月26日(火) 晴

沖潤子さんと共にギャラリー小柳に行き、小柳さんと面会。壁には杉本博司さんの水平線の写真が飾ってある。小柳さんが来月行われるアート・バーゼルに沖さんの作品を持って行き展示してくれるという。これはすごい展開になった。沖さんの作品に対する個人的な見解を言っても許されるだろう。「沖さんの作品はほぼ全て縫い目が円形になっているが、それを表参道のCOW BOOKSで見たときその謎が解けたような気がした。沖さんの作品は、全て女性器なのではないだろうか。つまり、そこから世界の生命体が噴出してくるようなイメージ。世界の根源を可視化した作品」。そのようなものではないかと小柳さんに話す。


5月29日(金) 曇

午前、某誌から新店舗についてインタビューしていただく。出版不況下の今後の展望を訊かれたので、「日本の書店の現状は、諸外国と比較すると実は恵まれているのではないかと思う。年々減少していると言っても一万軒以上あり、本の文化が定着している。東京や京阪神に限らず、自分のような小さい書店が全国にあって、イベントや他の物販、喫茶などをからめて存続している。様々なメディアが本と本屋の特集を組んでくれるし、TOKYO ART BOOK FAIRの会場の熱気はすばらしい」などと明るい側面から本屋について話をさせていただく。


5月31日(日) 晴

忙しかった5月も今日でおわり。東京駅から店舗に向かう途中、銀座湯の前を通る。日曜日で定休日。いつか銭湯に入ったあと、てんぷらでも食べてみたい。


*しばらく休載します。御愛読ありがとうございました。


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森岡督行 yoshiyuki morioka

「森岡書店」主人。1974年山形県生れ。著書に『BOOKS ON JAPAN 1931-1972 日本の対外宣伝グラフ誌』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『写真集 誰かに贈りたくなる108冊』(平凡社)、『荒野の古本屋』(晶文社)、『東京旧市街地を歩く』(エクスナレッジ)など「青花の会」編集委員。
facebook:yoshiyuki.morioka.7


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