撮影|森岡督行

9月1日(土)

山形ビエンナーレ開幕。私は主に、「畏敬と工芸」の部屋で、沖潤子さん、サカキトモコさん、橋本雅也さんの作品の解説を行う。この部屋では、現代作家にフォーカスをあて、自然への畏敬が感じられる作品を展示した。展示する作品は、山形という土地で開催する以上、山形の風土に根ざしたものにしたいと考えた。出品作家の沖潤子、サカキトモコ、橋本雅也の3人は、偶然にも神奈川県在住だが、3人の作品には、湯殿山の神秘に通じる世界観があると思っている。聞かず語らずの湯殿山。沖潤子の縫い目の軌跡とサカキトモコの「種子の起源~包〜」のシリーズには、共通して女性性が感じられ、あたかもそこから世界が生まれ出るようだ。また沖潤子は作品を「変容を続ける自身の皮膚」と表現し、サカキトモコの「麦藁と草糸の彫刻」は、天と地を結ぶ生命の循環の象徴として制作された。橋本雅也の「片影/鳥 」の素材となったクリの木は、かつて田の水路で土を止める杭棒として使われていたもの。長きにわたり地中に埋もれていた木片が、かたちをかえて、命をふきかえす。鳥が飛び立つ先は未来なのかもしれない。最終の新幹線で東京に戻る。


9月3日(月)

午前10時、泊昭雄さんの『BEACH』展の搬入・飾りつけを行う。


9月4日(火)

中学校の保護者会に参加する。


9月5日(水)

午前10時、大丸東京店にて大丸のオリジナルブランドのトラジャンでオーダースーツをつくる。ブラックの生地を選ぶ。スープストックトーキョー八重洲店で、設置を確認する。


9月6日(木)

銀座の資生堂ビルへ。畠山直哉さん、流麻仁果さんとアートエッグの賞の審査会を行う。畠山直哉さんと流まにかさんと3時間ほど議論。今回、3人の作家とも、インスタレーションを通して自身の世界観を観衆に問う展示だった。私が審査員に選ばれた理由は、2016年に開催された『そばにいる工芸』展で企画協力を行い、あの空間をどのように使うか、真剣に向き合った経験があるからだろう。すでに、350名の応募のなかから選ばれた3名であり、「はっきりした意図を持ち、積み重ねてきた思考」が評価されていた。審査が難航した理由を私なり考えると、3人の作家ともに、本来芸術にとって必要な、内発性と独自性を持っていたからに他ならない。


9月7日(金)

14時中目黒スマイルズにて文喫の企画会議。その後、徒歩で恵比寿のコンフィーニュに移動して、嶋崎さんと企画の打ち合わせを行う。


9月8日(土)

夕方、阿佐ケ谷駅付近のスターバックスコーヒーにてでフォトグラファーの白石和宏さんと合流し、新しく出版する写真集の打ち合わせを行う。


9月11日(火)

銀座の三笠会館でスティルウォーターの石原さん、青木さんと合流し、サンモトヤマに向かい、フリーペーパーのサンレターで書籍紹介をする企画の打ち合わせを行う。


9月13日(木)

14時、中目黒のスマイルズにて文喫のオープニングについて相談。


9月14日(金)

夜、中目黒のスマイルズにて、電通の社員の方々による新しいビジネスを提案する会合に参加。介護用のベッドをつくる案や、アートのセカンドマーケットの新しいあり方などが提案される。その後、パビリオンで会食。


9月15日(土)

朝の新幹線で山形に到着。山形駅で30分後の新幹線で到着する三谷龍二さんと皆川明さんを出迎える。GATTAの鈴木伸夫さんとも合流しビエンナーレの各会場をめぐる。荒井良二さんの「山のヨーナ」は、必要ではないけれど、なんとなく置いてあるもの、なくてもいいんだけど、しまってあるものと、ヨーナがつくる人形を交換できる絵本の中の世界。ちょうど荒井さんがライブを行っていて、短い時期だったが、その世界観を体験する。夜にとんがりビルにてトークイベント。〈日用美品とは〉がテーマ。5月末の松本六九クラフトストリートでの対談をふまえて、あらためてそれぞれが選んだ〈日用美品〉を持ち寄った。


9月16日(日)

朝、東北芸術工科大学で開催されている山形ビエンナーレを見学。三瀬夏之介さんと遭遇。古代に山形盆地にあったと言われている湖の「藻が海」をテーマにした東北画の可能性について、少々話をする。その後寒河江市の自宅へ向かう。


9月20日(木)

午後、銀座某所にての銀座のあらしい大規模開発についての説明をきく。夕方、新宿ゴールデン街にて某紙で連載が可能かどうかの相談。仕事の量としてはいま限界に達しているだろう。その後、愛をテーマにした歌舞伎町ブックセンターに移動してビールを飲む。


9月23日(日)

本年は、shiseido art egg賞の審査員を務めているが、今日はその審査会。3時間以上にわたる審査会を経て、今回は宇多村英恵さんの「戦争と休日」展に賞をもらっていただくことになった。宇多村さんおめでとうございます。自分なりの審査基準は、一つ目は内発的である事、どうしてもそれをしなくてはいけない衝動があるか。二つ目はオリジナルである事、他の誰も行っていないか。今回は3名の作家から一人を選んだが、3名とも条件をクリアしていたので、審査会は、大激論になった。ある意味、作家と同様に、こちらの力量が試された。来年は資生堂ギャラリーが100周年をむかえる。名実ともに銀座の文化を牽引してきたと言ってよいだろう。新しい美の発見という、資生堂ギャラリーの役割を果た すためどんな展覧会が催されるのだろうか。これからも期待される。


9月24日(月)

山形ビエンナーレの最終日。2014年にはじまった山形ビエンナーレは、東日本大震災の後、東北地方においてどのような芸術祭が可能かという課題をテーマの一つにした。それを受けて、今回は、工芸に現れた自然への「畏れ」や「敬い」のかたちを、1年半かけて30人の市民と一緒に探求した結果を展示した。米沢市に伝わる「けずり花」は、雪深い米沢にあって、冬でも墓前に飾れる花としてつくられたものだった。展示した郷土玩具の「お鷹ぽっぽ」は、調査の過程で発見した明治期のかたちを復刻ものだった。立案は自分がしたものの、展覧会が成立したのは参加したメンバーのおかげだった。携わってくださった方々に重ねてお礼を申し上げます。


9月25日(火)

HISの企画で中国の旅行者の方々に講演を行う。無印良品、セブンイレブン、ユニクロ、イオンの方と私という順番。夕方、店舗に戻る。たまたま店内にたお客さんと斜向かいの「麹屋三四郎酒舗」へ。チーズといぶりがっこをあてに日本酒を傾けながら、本や工芸の話をする。となりに座っていた常連さんが合流し、糸井重里さんの素晴らしさについて話す。店主の藤田さんは気さくな方で、山菜があまったときなど、おすそわけしてくださる。


9月26日(水)

午後、神田錦町にて生活工芸美術館の相談。ガラス張りの天高7メートルの60坪の空間に、中村好文さんの小屋を設置して、その中に、展示室を設ける案を提唱。急ぎ、どれくらい予算が必要かを試算する。夜、銀座ルパンにて某社の方と香水企画が可能かどうかの相談。


9月27日(木)

11時半、森岡書店の定例会を銀座の店舗で行う。15時、雑誌『男の隠れ家』の書店特集の取材を受ける。19時半、青山に移動し、ごはんやパロルにて生活工芸美術館の相談をしながら会食を行う。器のほとんどが黒田泰蔵さんの作品。


9月28日(金)

中村活字店は、駅から森岡書店に向かう動線上にあるから、ときどき前を通る。明治43年・1910年創業の老舗で、当主の中村明久さんはとても朗らか。今日もガラス越しに挨拶をする。文豪も出入りした老舗だが、誰にでも門戸を開いてお願いを聞いてくださる人柄が素晴らしい。自分もそんなふうに年をとりたいと誕生日におもう。


9月29日(土)

先日の生活工芸美術館建造計画の必要予算は、少なく見積もっても6000万円と出た。該当物件は、これまでの話し合いで、家賃が共益費だけにさがっている。自分が契約するかどうかの返答の期限は12月末日。最低でもこの金額を12月末日までに集めなくてはならない。


9月30日(日)

鈴木ビル2階にて、画家の日高理恵子さんと編集者の須山実さんのトークイベントを開催する。台風接近でJRが20時で止まってしまうなど、一時は開催が危ぶまたが、ふたを開けてみたら超満員のお客様に恵まれる。日高理恵子さんは30年以上も樹を見上げて、樹を描いてきた画家。見ることと描き続けることについて台風が来る直前の1時間半。


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