新しい編みものの楽しみ方がインターネット上で広がりつつあった2004年、ひとりの若い女性が frecklegirl(そばかすガール)というブログを始めた。彼女の名前はジェシカ・マーシャル・フォーブス。ジェシカにとって、ブログを通じて他のニッターと出会うのは素晴らしい体験だった。しかし、ブログ中心のオンライン・コミュニティには問題もあった。膨大な情報があちこちに散らばっていたために、読みきれない量のRSSリーダーと、数えきれないほどのブックマークをばらばらに追いつづけなければならなかったのだ。ITプログラマーである夫ケイシーにその不満を漏らすと、「ブログや他のウェブサイトとリンクした、糸とパターンのデータベースがあればすっきりするんじゃないの」と答えた。プロジェクトと糸の情報が満載で、検索するのも、情報を追加するのも簡単な、クールなサイト。ジェシカはこのアイデアが気に入って、ふたりはそれを実現するための作業を始めた。

2007年4月、ふたりは新しいウェブサイトを開設した。5月2日のジェシカのブログのエントリーには、このように書かれている。〈ケイシーと私で、編みものコミュニティのための新しいウェブサイト「ラベリー」を作り上げました。ここは、あなたが自分の編みもののプロジェクトや、手持ちの糸や道具をオーガナイズすることができる場所。そのうえ世界中の、ほかのクラフター(手芸をする人々)たちとつながることもできる。(略)もうこれ以上、グーグルで探し続ける必要はなくなる……私たちはただ本当に、みんなが欲しい糸やパターンの情報が得られて、他のニッターやクロシェッターの仲間とつながることができるような、みんなが楽しめる場所が欲しいの〉

そこからはふたりの予想が追いつかない勢いで広がりだす。開設の数カ月前から親しい友人たちをラベリーに招いて使い勝手を聞きながら開発を進めていたが、開設後も招待制を続けたところ、その申込者は列をなした。秋にはサーバーをいくつか買い足し、月に1万5000ものインビテーションをひたすら送りつづけた(ちなみに筆者がメンバーになった同年末は3週間待ちだった)。招待制を廃止したのは、開設から2年後のことだった。なぜこれほど長い間招待制にしていたのかという私の問いに、ケイシーはこう答えてくれた。「僕たちはまだサイトの準備ができていないと感じていたんだと思う。実のところ、今でもサイトが完成したとは思っていないんだけどね」

ラベリー創立者である若い夫婦に会うために、その日はボストンから北東に56キロ、マサチューセッツ州北東端のニューベリーポートという港町に向かった。この小さな町はヨーロッパを思わせる煉瓦造りの街並みで、中心部には瀟洒な構えの建物が並んでいる。19世紀には漁業や船舶建造などで栄え、多数のクリッパー(大型帆船)が造られたという。待ち合わせ場所の17ステイト・ストリート・カフェでは、ジェシカ、ケイシー、そしてふたりの愛娘の小さなエロイーズが待っていてくれた。3人の顔はラベリーですでに知っていたけれど、ジェシカはすっと背が高く、ホルターネックの花柄のワンピースがよく似合う、目のキラキラした女性だ。ケイシーはその向かいで柔らかな雰囲気をたたえて微笑んでいる。ジェシカが中心となって話し、ときおりケイシーがさりげなく話を引き取り、丁寧な説明を付け加えてくれた。

ジェシカ「とにかくオンライン上でニッター仲間と情報が集まる場所が欲しかったの。具体的にアイデアを出してくれたのはケイシーだった」
ケイシー「最初はもっとずっと小さなアイデアだったんだ。ブロガー同士が繋ることができる場所、仲間を探しあてる手助けができる場所、今編んでいるプロジェクトをシェアできる場所、そういうサイトを作りたくて」
ジェシカ「タイミングがよかったと思う。みんながウェブサイトを利用しはじめた時期だったから。広告は出さず、ブログの口コミだけで広めたの」
ケイシー「最初はちょっと怖かったね。コミュニティのサイズ感がよくわからなかったし、どうやってお金を稼げるか見当がつかなかったから。最初はメンバーになったみんながラベリーのサポートのために寄付を募ってくれたし、グッズを作って売ったりもした」


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