ケイシー「結局はサイトに広告を受け入れたことが、運営していくための最初の道筋をつくったと思う。外部からの投資を募らないで、自分たちですべての決定権を持てるようにしたんだ」

現在、編みものSNSラベリーの運営資金は、約60パーセントが広告でまかなわれている。広告主はほとんどがインディーダイヤーやエッツィのショップオーナーたちで、一つひとつは小さなものだ。その他は、ラベリー経由で売れたデザインパターンの売上手数料が25パーセント、そしてTシャツなどのグッズの売上だ。運営メンバーはジェシカとケイシーを含めて全部で5人、ケイシーは「コード・モンキー」、ジェシカは「ママ・ラベリー」と名乗っている。

ジェシカ「内部の運営はボランティアがやってくれている。最初のころ、フォーラムのディスカッションでちょっと発言したら『ジェスとケイシーはこう言ってる!』みたいに大騒ぎになったことがあって、ちょっとしたことで自分たちは口を出さないほうがいいとわかったの。だから私たちは基本的に背後にいるだけ」

ケイシー「手助けをしてくれる人たちが本当にたくさんいて、健全な運営にとても貢献してくれている。なかなか感じのいい場所になっているんだ。ラベリーは英語のサイトだけど、英語を使わない人たちを助けたり。素晴らしいと思うよ」

彼らがいうボランティアには、ふたつの種類がある。ひとつは、新しいパターンや糸の登録をしたり、ラベリー内のデータベースの整備といった地道な作業を手伝う、いわゆる「ボランティアエディター」のマークをつけた人々。それから、フォーラムやグループのなかにあるディスカッションボードの管理人やモデレーターとして、コミュニティ環境を整備する人々だ。コミュニティガイドラインにあるのは、互いを尊重すること、個人攻撃やヘイトスピーチ禁止、フィードバックは建設的に、年齢的なモラルに留意して、未成年がふれるべきでないものは掲示・発言しないこと、スパムを送らないこと。社会的に当たり前のルールばかりだが、誰かがそれに抵触したり、あるいはディスカッションが険悪な雰囲気になりそうになると、すぐにモデレーターがやってきて事態の収拾に努める。そのようなメンバー間の自発的な環境整備によって、快適な場所であることが守られているのだ。メンバーが自分にできることを持ち寄ることで、ラベリーのなかで必要な作業が自然に分担されている。

ラベリーはなぜこれほど大きくなることができたのだろうか。

ジェシカ「実のところ、どうしてこれほどたくさんの人たちが参加してくれるのかはよくわからない。こんなにみんなが協力してくれることにも、ずっと驚いている。最初は、数千人ぐらいの仲間ができればすごいことだと思っていた。100万人なんて想像の外よ。ひとりでに大きくなっていったの」

ケイシー「ウェブ上にコミュニティがあって、そこに行けばいろいろな人に会えるというのがいいんじゃないかな。みんな、仲間を必要としているんだ」

これからの展望を聞いてみた。

ケイシー「毎日、いろいろな人たちがいろいろなアイデアを送ってくるのを見て、プログラマーふたりで改良作業にいそしんでいるよ。タブレットや携帯しか持っていない人たちが増えているから、モバイル対応の強化も進めている。一番大事なのは、ここがオープンな場所で、フレンドリーであるということ」

「ラベリー」という名は造語で、「unravel(ほどく)」と「revelry(どんちゃん騒ぎ)」という言葉の組み合わせから作り出された。名付け親は夫婦の友人で、現在ラベリーのスタッフのひとりになっている。

ジェシカ「ラベリーはあくまでもヤーン(編み糸)ベースの場所。だからソーイングとかに広げるつもりはない。編むこと、紡ぐことといったファイバーアートに焦点を合わせた場所なの」

ケイシー「ラベラー(ラベリーのメンバー)たちがこの場所を可能にしてくれていることを忘れず、尊重し、感謝し続けること。それがモットーだよ」

幼いエロイーズの叫び声とカフェの雑音にときおり阻まれながら話を聞くうちに、この感じのいいカップルが、飾らない純真さでラベリーを生み出したということが、ただ、事実として理解できた。その個人的な望みと、編みものとファイバーを愛する仲間を喜ばせたいという善意から、この巨大なサイトが成り立っていることに、しみじみ感じ入る。サイトを維持するためのサーバーの確保と、自分たちの暮らし、それ以上にビジネスとして大きくしようという野心は見当たらなかった。2017年10月現在、このラベリーというコミュニティの規模は、全世界で730万人を超え、さらに増え続けている。これほどの規模になっても、ジェシカとケイシーの最初のシンプルな望みは変わらず生きている。それが多分、この場所に集う人々が自然と手を差し出して、手助けする理由なのだろうと思う。


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鳥古繰子 Tricoquelicot

ニットライター。多摩美術大学芸術学科卒業。外資系企業、国内手芸企業勤務を経て独立。『Peacework』や『Knitscene』など、アメリカの手芸雑誌でレポーターを務める。『毛糸だま』(日本ヴォーグ社)で海外の毛糸に関するコラムを連載中。
twitter:@tricoquelicot


1 はじまり 201605

2 バーブと羊たち 201606

3 シープ・シェア 201607

4 捨てられていたウール 201608

5 羊毛を糸にする 201609

6 染色工場 201610

7 染色工場2 201611

8 インディーダイヤー 201612

9 インディーダイヤー2 201701

10 ベロッコ社へ 201702

11 ノラ・ゴーンと 201703

12 ウェブのおかげ 201704

13 ニューヨークへ 201705

14 八布テキスタイル 201706

15 一緒に編む 201708

16 ラベリー1 201709

17 ラベリー2 201710

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