日本で「スリップウェア」というとおもに英国近世のやきものを指し、人物や動物文など鑑賞用の飾皿と、縞文はじめ抽象文の実用品(パイ皿)があります。彼地にさきがけ後者を美的に評価したのは日本人であり、代表はふたり、1920年代の柳宗悦と、1980年ごろの坂田和實でした。ことに骨董界における坂田さんの功績は大きく、(いまとなっては信じがたいけれど)スリップウェアが日本でほとんど売れなかったころから、こつこつと、抽象文の名品を日本に入れつづけました。今展は、坂田さんが請来したスリップウェア十数点ほか、欧州中世陶器や家具、コプト裂など西洋工芸を中心に、美術館 as it is の蔵品と古道具坂田由来の品々約60点を展観します(予約制)。


会期|A|2025年7月25日(金)-7月26日(土)
   B|2025年7月27日(日)-8月6日(水)
      2025年9月24日(水)-10月6日(月)
休廊|7月31日/9月30日
時間|12-18時
会場|坂田室
   東京都新宿区矢来町71 新潮社倉庫内(神楽坂)
見料|1000円
協力|有限会社坂田 美術館 as it is
   石川雅一 稲垣陽一 柴田雅章 月森俊文

*入場予約は以下より
A|青花会員のみ/事前予約+定員制
B|事前予約+定員制


対談|柴田雅章+月森俊文|坂田さんとスリップウェア
日時|8月1日(金)18時半-20時
会場|青花室
   東京都新宿区矢来町71 新潮社倉庫内(神楽坂)
*7月初旬より募集始めます



坂田和實 SAKATA Kazumi
骨董商。1945年生(福岡県)−2022年歿(東京都)。上智大学卒業後、商社勤務を経て、1973年、東京・目白に「古道具坂田」開店。以来、年に数回、海外へ仕入の旅に出かけ、欧州、アフリカ、朝鮮、日本、南米など、さまざまな国の品物を扱う。1994年、千葉県長南町に「美術館 as it is」(中村好文設計)を開館。2012年、渋谷区立松濤美術館で「古道具、その行き先−坂田和實の40年」展を開催。著書に『ひとりよがりのものさし』『古道具もの語り』、共著に『骨董の眼利きがえらぶ ふだんづかいの器』『日本民藝館へいこう』など(いずれも新潮社刊)。


今展によせて   月森俊文(日本民藝館職員)


坂田和實が1981年におこなった「英国スリップウェアー展」(古道具坂田)は、18世紀後半に実用品として作られた無銘スリップウェアのみを取り上げた日本初の企画展であった(本国でもなかったはずだ)。しかし4、5枚の予約があっただけで会期中には1点も売れず、その後数年間はイギリスの業者に安値で戻すという結果となった。このような状況を経ながらも坂田はイギリスのスリップウェアを地道に集め、生涯で約150点請来させたと後に述べている。驚くべきことにその数は当時日本に存在したスリップウェアの半数に迫るものだったのだ。現在この焼物が認知され、蒐集家が増え、作り手も多く育ったことの一因に彼の活動があったことは間違いない。
 しかし何が坂田にそのような苦労も厭わずスリップウェアの紹介を続けさせたのだろうか。真意はわからないが、ただ坂田が2003年の初講演で述べた以下の言葉はその糸口となるだろう。「神に対する祈りのためということを大きな用途と考えると、今回飾られているスリップウェアはロマネスク、先ほどのトフト・ウェアは個人作家が自己表現のために作る飾り皿ということでルネサンスに近い位置にあるというのが私の考えです」(トフト・ウェアとは実用品ではない在銘のスリップウェア)。
 今展では坂田和實の眼が選んだ英国スリップウェアの優品が多数展示される。彼がロマネスク藝術の末裔として見届けていた無銘の造形がガラス越しではなく実見できるのだ。是非足を運んで確かめていただきたい。















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