『工芸青花』9号
2018年2月20日刊
A4判|麻布張り上製本|見返し和紙(楮紙)
カラー168頁|古布(日本の蚊帳地)を貼付したページあり
限定1200部|12,000円+税

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Kogei Seika vol.9
Published in 2018 by Shinchosha, Tokyo
A4 in size, linen cloth coverd book with endpaper made of Japanese paper (kozo)
168 Colour Plates, Frontispiece with a piece of Japanese antique textile on frontispage
Each chapter is accompanied by an English summary
Limited edition of 1200
12,000 yen (excluding tax)

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目次 Contents

1 川瀬敏郎の花
Ikebana by Toshiro Kawase
 ・奇なるものについて 井上治

2 村上隆と坂田和實
Takashi Murakami and Kazumi Sakata, the World Top Contemporary Artist and an Infulencer in Japan
 ・民藝とヒップホップの間に 井出幸亮

3 少女の刺繡布
The Embroideries by Girls in premodern era
 ・オランダのサンプラー 金沢百枝

4 物と私 坂田敏子さんのスタジオ
Objects with me. The Atelier of Toshiko Sakata, a Fashion Designer

5 ウィンザーチェア
The Windsor Chair
 ・レストアラーの視点 室田宏一
 ・日本人が愛した英国の椅子 月森俊文

6 西洋工芸の道 村田コレクション
Crafts in Europe / Murata Collection
 ・村田新蔵の思索と蒐集 瀬尾典昭
 ・生活と工芸 三谷龍二

7 ロベール・クートラスをめぐる断章群 3
Fragments on Robert Coutelas 3
 ・青灰色の谷へ 堀江敏幸

世界の布
精華抄


1|川瀬敏郎の花
Ikebana by Toshiro Kawase





花人の川瀬敏郎さんの花、今回のテーマは「奇なるもの」です。川瀬さんの提案でした。文章は哲学者の井上治さんにお願いしました。

〈「神」や「奇跡」といった言葉の価値が暴落する現代社会において、「奇」もまた安売りされて久しい。もはや「奇を衒う」という段階にさえない、奇というパターンの劣化コピーが「奇なるもの」として氾濫している〉〈奇の凡俗化の要因には、芸術および芸術家の大衆化とともに、先述の画家に代表されるようなある種の作品を「奇」としてきたことに起因する奇の定型化もあるだろう〉

〈定型化〉にあらがいつづける定型詩人/花人があらわそうとした「奇」とはなにか。器はおなじ器です。S


2|村上隆と坂田和實
Takashi Murakami and Kazumi Sakata, the World Top Contemporary Artist and an Infulencer in Japan





昨年八月、美術家の村上隆さんが主宰するカイカイキキギャラリーで「陶芸↔現代美術の関係性ってどうなってんだろう? 現代美術の系譜に陶芸の文脈も入れ込んで」という展覧会がありました。出品作家は以下の七名です(李禹煥、菅木志雄、岡﨑乾二郎、日比野克彦、中原浩大、安藤雅信、坂田和實)。その展評というかたちで、ふだんはおもにカルチャー誌で編集執筆をおこなう井出幸亮さんに論考をよせてもらいました。

〈今回の展示において最も際立った重要な存在として考えられるのは、やはり「古道具坂田」店主・坂田和實だろう。というのも、坂田は自らの手を動かして作品を作り出すという通常の意味での「作家」ではないからである。(略)端的に言って、村上氏でなければ成し得なかった、エクスペリメンタルかつ野心的な試みだと思う〉

同展を村上さんによる「表現者としての坂田和實論」とみなし、それを読解する記事です。S


3|少女の刺繡布
The Embroideries by Girls in premodern era





昨年春、美術史家の金沢百枝さんとアムステルダムへゆきました。「サンプラー」とよばれる刺繡布をみるためです。

〈刺繡の初心者である少女(八歳から一五歳くらい)が技法や意匠をまなぶために縫ったのがサンプラー。古いものでは一五九八年のイギリスの布(ヴィクトリア&アルバート美術館蔵)や、近年発見された一五七二年のオランダの布が知られています。(略)ヨーロッパ各地および移民の多いメキシコ、北米の作例もあります〉〈ダーニング・サンプラーはオランダに多い図柄です。(略)布にあいた穴をめだたないようにつくろうために、布の織目を刺繡で模したものです。じっさいにつくろうときは地の布とおなじ色の糸をつかうのですが、サンプラーは練習なので、運針がよくわかるように白布に色糸をもちいています〉(金沢百枝)

幾何学文様と褪せた色糸があいまって、ひかえめな美が好ましいものです。S


4|物と私 坂田敏子さんのスタジオ
Objects with me. The Atelier of Toshiko Sakata, a Fashion Designer





古道具坂田の坂田和實さんの夫人である敏子さんは服のデザイナーです。四〇年まえに古道具坂田の店内で子供服の販売からはじめて、いまも目白で店をつづけています。坂田さんの服は敏子さんの服であることがほとんどです。

あるとき(といってもずいぶんまえですが)、古道具坂田のとなりが敏子さんのスタジオになりました。打合せや撮影などにつかっているそうです。今回掲載したのはおもにそこにおいてある品々です。

〈稀少性や時代の新旧、作家の名前など、そんな「肩書」ばかりによりかかった安易な評価はもうサヨウナラ〉(坂田和實『ひとりよがりのものさし』)。敏子さんはそんな眼利きと、かねてより思っていました。S


5|ウィンザーチェア
The Windsor Chair





昨年夏に長野県信濃美術館で、秋に日本民藝館で「ウィンザーチェア─日本人が愛した英国の椅子」展がひらかれました。一八、一九世紀のウィンザーが五〇脚以上ならび、ウィンザー以外の椅子やテーブルも四〇点ほど展示されました。みな国内の所蔵品です。

〈識者の多くは、この椅子をたくさん持つ国は英国、アメリカに次いで日本だと推定しています。近年まで椅子文化すらなく、高度経済成長期でも庶民は畳に卓袱台の生活を普通に送っていました。そのような国になぜ多数のウィンザーチェアが存在するのでしょうか〉(月森俊文)

〈日本独特の美意識が反映したものの展示が多いように思えた。特に一八世紀頃のシンプルでちょっとプリミティブな系統の椅子が多く選ばれているところにも、それはよく表れているようだ。このタイプの椅子は装飾が最小限だが、この時代の椅子が皆その様にシンプルであったわけではなく……〉(室田宏一)

同展図録では、ウィンザーチェアを〈座面の板材に背棒と脚を差し込んで、すべて木で作られた椅子〉と定義しています。日本においてウィンザーは家具というより工芸、骨董であったこと、そしてそれがどのように特殊な受容であったかを、立場のことなるふたりの解説で知ることができました。S


6|西洋工芸の道 村田コレクション
Crafts in Europe / Murata Collection





〈道具は道具の全体性に属し、相互に連関しあい生活を可能にします。この連関のしめす理解の全体こそ人間が何かに出会える根拠でもあって、それが世界というものです〉(村田新蔵「ヨーロッパの暖炉と生活工芸」)

かつて埼玉県春日部市の駅前に「生活工芸資料館」がありました(一九七二─八七年)。村田新蔵(一九三〇─二〇〇八)が一代であつめた四〇〇〇点にもおよぶ西洋工芸、西洋家具を展示する場所です。閉館後、それらは公開されることなく洋子夫人のもとにありましたが、二〇一六年秋に長野県信濃美術館で村田コレクション展がひらかれ、およそ三〇年ぶりに陽の目をみました(五章で紹介したウィンザーチェア展にも村田コレクションの椅子が出品されています)。

〈村田さんたちは装飾的な西洋工芸ではなく、二、三〇〇年前に作られた「身近な日常工芸品」に、より心を動かされたのだと思います。農夫が大地を耕す道具。主婦が日々使う調理器具や家具類。それらは生活の必要から生まれたものばかりです〉(三谷龍二)

素材や用途、地域や時代のちがいをこえて、それぞれの品にあらわれている、にじみでているものをみつめる機会になりました。S


7|ロベール・クートラスをめぐる断章群 3
Fragments on Robert Coutelas 3





堀江敏幸さんによるフランスの画家ロベール・クートラス(一九三〇─八五)の評伝です。堀江さんは彼の足跡をめぐる旅もしていて、今回はクートラスが一〇代をすごしたオーヴェルニュ地方ティエールへ。少年が「つくること」にめざめた街です。S

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