
2 1946年のクリスマス
『女性』1946年11・12月合併号 新生社
斜め下へと目を遣る長い髪の女性が着る上着の鮮やかな翠色と、中に着たニットとチーフの赤。そのコンビネーションで合わせた和英のタイトル文字。洋画家・小磯良平の描いた表紙画の素晴らしさは、その人物の表情に滲む品性だけでなく、時節に合わせたこの瀟洒な色使いにもある。時は敗戦から1年と少し、世はもうすぐクリスマスなのだ。1946年4月に創刊された月刊女性誌『女性』の編集発行人を務めた青山虎之介は、戦後出版史に名を残す人物である。この前年、31歳のサラリーマン文学青年だった青山は敗戦の翌月すぐに出版社「新生社」を立ち上げ、総合雑誌『新生』を創刊。すっかり娯楽に飢えていた国民の間で大ヒットを飛ばし、これが戦後の新興出版社による出版ブームのきっかけを作ったとされる。その青山が余勢を駆って翌年4月に創刊したのが『女性』だった。

『女性』の誌面にはまさに、終戦の解放的な空気が満ち溢れている。ファッション、インテリア、恋愛、文学、生け花など新時代の女性のライフスタイル提案を詰め込んだ記事は、写真やイラストなどのヴィジュアルが豊富に生かされている。表紙画は佐野繁次郎、東郷青児、藤田嗣治ら、カットは花森安治や鈴木信太郎など、当時のモダンでお洒落なアーティスト総動員の趣。何となくウキウキするような軽さがある。


巻頭の美しい2色頁には佐野繁次郎によるヌードデッサンと、「冬のたのしい生活のために」と題した外套やジャケットのスタイル画(田中千代デザイン)。他には勅使川蒼風の生け花作品の紹介や、随筆家・森田たまの人生相談など。11・12月合併号である今号では、「思ひ出のクリスマス」と題して作家や舞踊家ら4名によるクリスマスについてのコラム寄稿のほか、漫画家ヲノ・サセオ(小野佐世男。漫画評論家・小野耕世の父)のコミック「クリスマス・イブ」も。戦後すぐの年にこれだけクリスマスを祝う機運があったとは驚きだが、やはりそれなりの経済力を有した家庭のご婦人が読者だったのだろう。


何と言っても面白いのが、グラフィックデザイナー亀倉雄策による記事「あなたの趣味をテストしてみませう」。読者のインテリアのセンスを、かの日本工房でならした日本を代表するデザイナーの亀倉センセイがテストしてくれるという企画である。

〈あなたの教養の程度はあなたの趣味でわかるのです。この二つの問題、即ち壁の額と食卓です。この二つが単的にあなたの心の奥のあるものを他人に具体的に示めし得るのですこの夏(筆者注:頁の誤植と思われる)のいろいろな例の写真はあなたの心のあるものの部分です。即ち教養と趣味をテスト致します。(中略)とにかくあなたは解説を読まずに先づ写真を御覧になり上と下の例はどちらがよい趣味か御自分で御自分の趣味をテストしてみてください。〉
上下2つのインテリアの写真を見て、「どちらが趣味が良いか?」を当てるという趣向だ。みんな違って何とやら、の現代ならまず見かけない類の手法だが、復興期のとば口にあり近代的で文化的な生活へと邁進し始めた日本の人々にとって、この種の啓蒙的な態度が求められていたのだろう。ここで見られる部屋のインテリアは徹頭徹尾、西洋風のそれ。当時、実際にこんな家に住んでいたのは相当な資産家ではないか。マントルピースて!

さて僕も一丁やってみるか、と挑んでみたが、これがなかなか難しい。答え合わせに亀倉先生による各問題の解説を見てみると、「①下の方が絵と小さな古典的な鉢の葉と調和が取れて快い」とか書いてあって、いやそれめっちゃ主観ですやん、てな心持ちにもなるが、「⑦上は花とレース模様とがゴタゴタしてゐる。主婦がテーブルを飾ることに夢中になつて理性を失つたのである。下が簡素で新鮮、そして陶器が美しく見える」と手厳しくも納得できる解答もあり。
〈あなたの部屋、あなたの食卓、あなたの生活のすべて一すぢの流れです。この流れを美しくするにはあなたの趣味を高くしなければなりません。高くすることは苦しいが楽しいことです。〉
ようやく自由を手に入れ、未来へと向かい始めた女性たちにとって目線を「高くすること」は苦しくても楽しいことだったに違いない。表紙に掲げられた「WOMEN’S MAGAZINE」の字から、そんな時代の風がさっと吹いてくるよう。