1|2020年4月27日-5月3日


撮影|佐々木英基/川瀬敏郎事務所

*過去の回は以下の「記事」欄より御購入ください。
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「四時之花」をはじめるにあたって   川瀬敏郎


遠い祖先の時代から、一本の木、草、花にこころを託してきた日本では、自然はこころを求め、人の手を待っている。私たちが野山で眼にとめた花のいのちを受けとり、いけ、日々の生活にいかすことは、自然と人との太古からの約束であり、こうした両者の深い繋がりを通して、日本の美は受け継がれてきた。

なげいれは「常理あって常形のない」花、つまり決まった答えをもたない花だけに、いけばなの型や、花道史などの知識に頼ると、本質から遠ざかってしまう。一人ひとりが、大地にちりばめられた草木花の一瞬の生を掬いとることで、花の真言へと導かれる。

花に厳しさを求めれば、厳しく孤高の花になり、喜びを求めれば、歓喜に満ちあふれた花になる。侘びを求めれば、一輪の内に宇宙が宿る。人のこころの数だけ花はあり、いけることは無限に通じる。

私のなげいれの教場には、北海道から沖縄まで、全国各地の花々を携えて人々が集う。稽古当日の教場は、各人が持ちよった固有の風土を持つ花々により、山野と化す。そこで毎回六時間強、ひたすらに花と向きあい琢磨する。その間の、胸が晴れるような喜びと言ったらない。

歳月を経て、教場の花、稽古の花は、数万枚もの厖大な写真となって私の手元に残った。花と人の濃密な時間の記録であり、大切な宝である。もとより門外に発表するなど考えたことはなかった。

世界が、日本が、コロナウイルスで逼塞するなか、花に生かされてきた者の記録、その喜びの記憶が、日々を生きる人々を慰め、こころの扉を開けてくれることを信じて、「四時之花」を届けたい。


*川瀬敏郎さんの記事を掲載しています。

『工芸青花』5号
https://www.kogei-seika.jp/book/kogei-seika005.html
『工芸青花』9号
https://www.kogei-seika.jp/book/kogei-seika009.html
『工芸青花』10号
https://www.kogei-seika.jp/book/kogei-seika010.html
『工芸青花』12号
https://www.kogei-seika.jp/book/kogei-seika012.html
『工芸青花』13号
https://www.kogei-seika.jp/book/kogei-seika013.html


*川瀬敏郎さんの本

『川瀬敏郎 一日一花』
https://www.shinchosha.co.jp/book/452802/
『川瀬敏郎 今様花伝書』
https://www.shinchosha.co.jp/book/452801/


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