
〈学生のときに図書館で『シェーカー・ファニチュア』という本に出会い、その清楚な佇まいの家具に眼と心を奪われました。(略)シェーカー家具にはいまだにあのころの「恋心」に似た感情を抱きつづけています〉(中村好文/『芸術新潮』2002年12月号特集「意中の家具」より)
シェーカー教団は19世紀アメリカで興隆したプロテスタントの一宗派。各地に共同体をつくり、自給自足的シンプルライフを送っていました。彼らの手になる建築、家具、服飾等いずれもすばらしく、なかでも椅子は「世界の名作椅子」にあげられるなどよく知られています。
今展は、中国/アメリカのアンティークショップ「ARTISTSAN」代表・費雲飛さんのコレクションから、椅子を主に、オリジナルのシェーカー家具数十点を展示します(販売有)。
会期|2025年9月24日(水)-10月6日(月)
*9月24・25日は青花会員限定
休廊|9月30日
時間|12-18時
会場|青花室
東京都新宿区矢来町71 新潮社倉庫内(神楽坂)
出品|費雲飛(ARTISTSAN/阿特森)
講座|費雲飛|シェーカーと私
日時|9月26日(金)18時半-20時
会場|青花室
今展によせて 費雲飛(ARTISTSAN/阿特森)
2023年、私たちは中国・杭州で「シェーカーチェア」展を開催しました。おそらくこれは中国本土で初めての本格的なシェーカー家具の展示だったと思います。展覧会期間中、メディアからの取材は一切ありませんでしたが、友人たちからの賞賛と励ましを受け、心から嬉しく思いました。しかし何よりの収穫は、この展覧会が『工芸青花』の目に留まり、菅野康晴編集長と知り合えたことです。菅野さんはご自身や友人たちがシェーカー家具を大変好んでいること、また「工芸青花」の「青花」という言葉の日本語発音が「シェーカー」に似ていることを教えてくださいました。これらすべてが何かの縁だと感じ、私は即座に青花室で再び「シェーカーチェア」展を開催することを決意したのです。
シェーカーチェアはシェーカー教団によって生み出されました。神学者トマス・マートン(Thomas Merton)の言葉を借りれば、「シェーカーチェアが特別な魅力を放つのは、それを作った人々が、そこに天使が腰掛けるかもしれないと信じていたから」です。
シェーカー教団は、世俗と共存しながらも、独自の精神的価値観を貫くという二重性を保持していました。信者たちは創始者アン・リー(Ann Lee, 1736-84)が示した理想的な暮らし方、すなわち現実世界で「エデンの園」のように生きることを厳格に実践しました。外部の世界に起源を持ちながらも、シェーカーチェアは伝統的な「ラダーバックチェア」とは本質的に異なり、シェーカー教団の理念を形にしたものです。それは、極限まで簡素化されたデザイン、世俗から離れた姿勢、機能性と実用主義の追求、高度な統一性、そして完璧な工芸技術へのこだわり——こうしたすべてが、シェーカー教団の生活哲学を体現するものなのです。
この様式は19世紀後半から外部世界で広く模倣され、1930年代のデンマークのデザイナーたちにも大きな影響を与えました。そして今日では、世界中のデザイナーや職人たちがこの様式を学び、模倣しています。シェーカーチェアは、精神的な信仰が物質生活に応用された最良の例であり、同時に、信徒たち(そしてすべての人々)が世界をよりシンプルで質素で美しい生き方へと変容させることを求める、その精神の具現化なのです。
費雲飛 Fei Yunfei
アンティークショップ/カフェ「ARTISTSAN/阿特森」代表。1980年生れ。中国・遼寧省大連市出身。遼寧省工芸美術学校工芸・彫刻専攻。2002-12年、北京にて個人スタジオ運営(インテリアデザイン、建築設計、都市彫刻制作)。2011年からアメリカ・カリフォルニア州在住。2014年、アメリカにて「Artistsan Design Inc.」設立。2017年より杭州にて「ARTISTSAN」運営。
・サイドチェア エンフィールド/コネチカット州 1840-60年代
・サイドチェア ニューレバノン/ニューヨーク州 1830-40年代
・ロッキングチェア エンフィールド/コネチカット州 1840-60年代
・サイドチェア ニューレバノン/ニューヨーク州 1840-60年代
・サイドチェア(No.18) ニューレバノン/ニューヨーク州 1830-50年代
・ロッキングアームチェア(No.6) マウントレバノン/ニューヨーク州 1870年代
・サイドチェア マウントレバノン/ニューヨーク州 1860-70年代
・ロッキングアームチェア(No.5) マウントレバノン/ニューヨーク州 1876-80年代
・ARTISTSAN内のシェーカールーム 杭州
・同
photo:ARTISTSAN