
4 李朝刷毛目塩笥茶碗

「観測史上初」が連発された長い夏がようやく終わったと思ったら、もう12月になってしまいました。最近の冬は底冷えするような厳しい寒さを感じることもなくなり、実感には乏しいのですが、厳冬の季節に相応しい茶碗が「塩笥(しおげ)」です。「笥(け)」とは古い言葉で「食物を盛る器全般」を指したようです。
塩笥は塩壺のことで、朝鮮(李朝)で塩入れとして使われていた小壺を、当時の茶人が茶碗に見立てて使い始めてついた呼び名と云われていますが、実際に塩入れに使われていた小壺であれば、いくら洗っても塩気は抜けず、茶は不味いものになるでしょうから、あくまでも「塩入れに使う様な小壺を見立てた茶碗」と云った意味合いと思います。
さて掲出の「塩笥茶碗」です。上掛けされた白釉にも深い味の付く伝世茶碗で、まさに当時の茶人が取り上げた、塩の入った小壺の風格です。雑器(入れもの)として酷使された時代のシミか、茶碗として長く使われてのシミか、私には判断ができませんが、いずれにしても幾百年の厳冬を越えてきた碗(小壺)に違いはありません。
私の手元にあり、冬のひと時を和ませてくれるのは、この茶碗の生き続けた歳月からみれば、ほんの一瞬のことです。骨董の価値とは、その一瞬のために相応の対価を払う者だけが感じとることのできる、モノと人との関係なのかも知れません。

*この連載は、高木孝さん監修、青花の会が運営する骨董通販サイト「seikanet」の関連企画です
https://store.kogei-seika.jp/
