
8 青銅レードル

この古代ローマ(紀元前)のレードル(玉杓子)も、古道具坂田(坂田和實さん)の扱った品で、私たちの主催する交換会(集芳会)に出てきたものです。17世紀頃の西洋で使われたものと勝手に思っていたのですが、品に添付されたコピーがあり、似た品が載っていました。ローマ時代のイギリスのレードルで、紀元前後の品と知りました。そう思って眺めて見れば、柄の先端に施されている装飾の動物頭部も何やら意味ありげに見えてきますから、私の眼もいい加減なものです。花器にしたら……と思い立ち、加熱する競りに参加しました。
さて、坂田さんです。先月、「古道具坂田の扱った品は、すでに骨董となっています」と書きました。しかし、今も「アレは骨董ではない」と否定する骨董商も多くいます。そういう人を「古くさい」と片付け、坂田さんの選ぶような品こそが骨董最先端なのだと信じるのは自由ですが、それでは本質(骨董的価値)を理解しているとは云えません。信じ込んで、最先端(ゴミ)の山を増やしているだけかも知れません。
「アレは骨董ではない」と否定した相手に、「では、何が骨董か」と訊ねてみましょう。おおよそは「骨董とはその道のプロ(骨董商)や蒐集家が見て、数万、数十万と値のつくモノで、味がよかったり、希少性、伝来のよさが加われば更に高くなったりするモノ」と応えるかも知れません。その通りと私も思います。
ここでひとつ秘密を明かします。2月のブログで紹介した坂田さんのノコギリは、納品書(坂田さん自筆の納品明細書)の中に「フランス19世紀」と書かれ、2万8000円の値が付けられていました(納品書は、リストにあった高額品を買い落とした業者が品とともに持ち帰る権利を得ましたので、私の手元にはありません)。もし、件のノコギリが何の注釈もなしに、私たちの交換会に出てきたとすれば、「3000円」の発句(その会での最低の競り値)でも、誰も買おうと声を掛ける業者はいなかったでしょう。もちろん私も買いません。坂田さんの扱ったノコギリだから買ったのです。
会に出席している百数十人の骨董商の誰一人として、フランスの古い(ただの)ノコギリに3000円を払う価値を見出せないのです(会には骨董新感覚派と称される業者も多く来ています)。坂田さんは(ノミの市の)ガラクタの中から、このノコギリを見つけだし、「コレ」と感じて仕入れ、古道具坂田で2万8000円のプライス(定価3万円だったかも知れません)を付けて売っていたのです。
聡明な方ならお分かりでしょう、やつれたノコギリは、坂田さん(坂田和實の眼)だからこそ選び得た1点なのです。件のノコギリに限らず、古道具坂田に並べられた品(商品)の全てが、坂田和實の眼を通して選ばれた品なのです。
古道具坂田の存在は、わずか40年です。坂田さんの亡くなった今、坂田さんの選んだ(扱った)品はもう増えません。もう一度書きます。骨董とは、その道のプロ(骨董商)や蒐集家が見て数万、数百万と値のつくモノ、味がよかったり、希少性、伝来のよさが加われば更に高くなったりするモノが骨董、と……。
坂田さんが「コレ」と思い仕入れた品(坂田さんの扱ったモノ)となれば、ガラクタ然としたノコギリにも値がつきます。更に云えば、本に載る品、メモや領収書、値札等で古道具坂田の扱いと証明できる品(それらは従来の骨董で云う箱書きと同じです)であれば、更に高値で取り引きされ、中には数百万円となる品もあります。
古道具坂田の品々の市場価格を高め、骨董価値を定着させてきたのは、他ならぬ現役の骨董商と蒐集家なのです。坂田さんの扱った品を骨董と呼ばなければ、何を骨董と呼ぶのでしょう。「坂田さんの扱った品」こそが、今もっとも熱い骨董と云えます。
坂田さんが扱った品と、坂田さんが扱いそうな品とでは、価格に大きな差が出るのは当然のことです。

*この連載は、高木孝さん監修、青花の会が運営する骨董通販サイト「seikanet」の関連企画です
https://store.kogei-seika.jp/
