毎年冬におこなっている「生活工芸」作家の3人展、今年の主題も昨年につづき「つどう」です。安藤雅信(陶)、辻和美(ガラス)、三谷龍二(木工)の3人が3組ずつ監修、共作した茶箱、珈琲茶箱、朝食セット、デザートセットなど9組を展示します(於工芸青花)。いずれも今年5月に北京でおこなう3人展(北京のギャラリー莨室と青花共催の生活工芸展)で展示販売するもので、東京での展示は、その完成披露の会でもあります。

おなじ建物の別室(悠庵)では、3作家の近作を展示販売します。『工芸青花』の新刊17号(1月末刊)では「生活工芸と村上隆」という特集を組みました。そこで多くが語られていますが、2000年代に主流化し、「近代工芸史を切断した」(広瀬一郎/桃居)とされる生活工芸の核心的現在を御覧いただけましたら幸いです。


会期|2022年2月25日(金)-3月1日(火)
   *2月25日は青花会員と御同伴者1名のみ
時間|13-20時
会場|工芸青花+悠庵
   東京都新宿区横寺町31-13 一水寮(神楽坂)
出品|安藤雅信 辻和美 三谷龍二


講座|安藤雅信+辻和美+三谷龍二|生活工芸と海外
日時|2月26日(土)17-19時
会場|ギャルリももぐさ
   岐阜県多治見市東栄町2-8-16
定員|35名
会費|3500円
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=775







道具と精神   安藤雅信


毎朝、庭の景色を見ながら、喫茶を楽しんでいる。その日の気分や天候、お菓子、料理に合わせて飲み物を何にしようか考える。その度に道具も変わるので面倒に感じることもあるが、ペアリングは重要である。手元に各種の茶の道具が揃っていれば、所作も自然と流れるだろう。喫茶が精神に作用することを思うと、道具が調っていることは重要なのだ。

安藤雅信 Masanobu Ando
陶作家。1957年岐阜県多治見市生れ。武蔵野美術大学彫刻学科卒業後、多治見で焼物制作を学ぶ。1998年「ギャルリ百草」開廊。



生活工芸にもオルタナティブ?   辻和美


コロナ3年目に突入。マスクにも、人との距離にも、オンラインの買い物もテイクアウトの外食にも慣れてきた。むしろその中から、新しいスタンダードが生まれようとしている。コロナがあり、気づいたこと、むしろ良かったこと、私たちにはいろいろある気がする。

この3人の作家のコラボレーション「つどう」の作品も、コロナ無しには生まれなかった。私たち生活工芸の作家たちの日常は、昨日、今日、明日とそんなに大きく変わらず、日々、仕事場に向かい、同じタイプの制作を繰り返すことが多い。反復の中に学びがあり、ささやかな違いに喜びを見つける......。ただ、この「つどう」作品は違う。コロナ禍、何かいつもと違うことをやろう! ということで始まった生活工芸オルタナティブ、もしくはスピンオフとも言える、3人で作るコラボ作品だ。全てが1点モノの制作であり、素材も作家の癖も違うから、依頼して、出来上がってきたら全然違っていたり、というのは普通のこと。それを一つにまとめていく仕事はスリルがあり、個人的にはとても好きな仕事だ。

作品の根底に流れる、人と、人の暮らしへの興味と愛情には全く揺るぎはないのだが、いつもとは違う。このように、これからもいろいろなところから「生活工芸オルタナティブ」「生活工芸スピンオフ」が生まれてくることで、「生活工芸とは何だったんだろう?」という問いの答えに、近づく気がしている。

辻和美 Kazumi Tsuji
ガラス作家。1964年石川県金沢市生れ。商業デザインを学んだのち渡米、カリフォルニア美術大学でガラス制作を学ぶ。帰国後、1999年「factory zoomer」設立。



生活工芸と海外   三谷龍二


展覧会を開くなど、海外とのつながりが増えたのはここ10年くらいになります。考え方や生活習慣が違う外国の人々に、日本の暮らしから生まれた生活工芸が受け入れてもらえるのか、そこにはなかなか難しいものがあると感じていました。しかし、実際に付き合いが始まってみると、思っていた以上に「器」というものに対して、よい反応があることに驚きました。特に東アジアでは、日本が先行して近代化を進め、それが1970年代頃に変質して、主にファッションやマンガに見られるような、西洋のものを日本流に読み替える文化が花開いたこともあり、それらが彼地の人々にも受け入れられ、すでに身近なものになっていた。そうしたことも、生活工芸が受容される助けになったと思います。

日本では、掛軸のような絵画も、器、いけ花などもともに部屋のしつらいであり、分けて考えてきませんでした。部屋のなかで「共に暮らすもの」として、分けることなく取り扱ってきたのです。美術と工芸の境を紛らかす、このようなものの見方が、ボーダーレス化する世界のなかで、これから多くの可能性を持つのではないか。なんとなくそんな風にも思っています。

三谷龍二 Ryuji Mitani
木工家。1952年福井県福井市生れ。1981年松本市に工房「PERSONA STUDIO」設立。2011年「ギャラリー10cm」開廊。




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