「骨董屋へ行こう」の後編(まとめ)です。

お客さまと云えども、嫌われる客と好かれる客があります。初心者のうちから好かれる客になってしまえば、お金はなくとも、良品に出合う機会も圧倒的に増え、眼も肥えるでしょう。今回は、そんなお得なお話です。

■嫌われる客
まずは「嫌われる客」です。この手の客は嫌われる。その例をいくつか……。

・黙ったまま
これはもう説明の必要はないと思います。お店に限らず、催事の場合も同様です。黙って入ってきて、黙って品物を見回し、黙って手にとる……これは、イケマセン。短気な主人でしたら「帰ってくれ」となります。「ちょっと見せてください」とか「こんにちはー」のひと声をかけてください。慣れてしまえば、そう難しい日本語ではありません。

・保証させる
「これって保証?」。少々懐に余裕はあるが、その割に知識の乏しい初歩の方はこんな風に訊いてみたくなる場合もあろうかと思います。特に数十万円もする品でしたらなおさらでしょう。「ハイ! モーモチロン保証サセテイタダキマス」と応えるお店も少ないでしょうが、そのように応えるお店は、逆に注意が必要かも知れませんよ。

閑話休題。値上がり確実な内部情報のある株を特定の顧客に売ることをインサイダー取引と云い、法律で罰せられますが、古美術・骨董には値上がり確実な銘柄などひとつもアリマセン! 「この品でしたら、いつでも売値で引き取らせていただきます」なんて自信たっぷりの物言いをする店には気をつけてください。売らん哉の窮余のひと言の場合がほとんどです。売値でいつでも引き取っていたら、日本中の骨董屋が廃業してしまいます。

さて、保証の続きです。まともな骨董屋で扱う品は、たとえ数千~数万円の品でもまともです。「保証」の意味が「ホンモノ?」と云うニュアンスを含んでいれば、当然、店主にとっては「カチンとくる」要因になります。「分からなければ、無理をされないほうが……」とやさしく返してくれる店主にあたれば良いのですが、下手をすれば「なら買うな」となります。たとえあなた好みのお店であったとしても、2度目はありません。

・他店の話
「某店で何々を買ったが……」とか「某店で見た何々は……」とか、話の糸口がつかめずについ口走ってしまう場合があるのではと思います。楽しく気さくな性格は、店主にも喜ばれるのですが、賞賛でも悪口であっても他店を云々される方は、他の店でもこの店のコトをアレコレと話しているのだろうと思われ、結果として警戒されてしまいます。店主秘蔵のうれしい品が奥から登場することは、まずないでしょう。よほど親しい間柄になるまでは、他店の話題は慎んだほうが無難です。

・値切る
骨董を買うとなると「少しまけてもらえませんか?」とついつい口走りたくなりますね。フリマや露店での買い物では、「まけて……」のひと言が売買のきっかけ作りにもなりますので、乱発しても歓迎される場合もあるでしょうが、お店の場合は微妙です。定価表示のある品なら、「では、気持ちですが……」と値引いてくれるやさしい店主もあるでしょう。定価表示がなく、「いくら?」と訊ねて提示された価格でしたら、「まけて……」はよほど仲の良い関係であれば別ですが、お付き合いの浅いうちはグッと我慢しましょう。「まけて……」を連発される御仁に、すぐれた蒐集家はいません。

・長居する
これは前回書きましたので、省略。

■好かれる客
「好かれる」と云う言い方もおかしいのですが、古美術・骨董の場合は、代わりのない品を扱う場合が多いですから、「この人になら……」と思われる客となったほうが、やはり良い品と出会える機会は増えてきます。「この人なら……」と店主に思われるテクニックを……(笑)。

・素性をはっきり
初めから名刺を出して挨拶をする必要もないのですが、初めての店は、当然あなたの蒐集程度も懐具合も知らない訳ですから、どのような対応をとって良いものか判断に困ると思います。そこで、もし気になる品のありそうなお店でしたら、「実はこういう者で、この位の金額の……」と話してしまったほうが、後の対応がぐっと違ってきます。

好みの傾向を伝えるには、好きな品が店頭に飾ってある場合でしたら、「このような品が他にもあれば見せていただけませんか?」でOKなのですが、あまり品を並べていないお店の場合が厄介ですね。以下、尋ね方のアドバイスです。

例1です。唐津や美濃の数万~数十万円までの品を主に探しているのなら、「疵だらけでも良いのですが、唐津や美濃の10万位までの何か、ないでしょうか?」。ここでのポイントは「疵だらけでも……」です。ホンモノの唐津や美濃で10万円位でしたら、まず発掘の疵物に決まっています。そこをすでに承知の客であると、暗に思わせる訳です。このポイントを外すと「10万位の唐津や美濃……」だけが残ってしまいます。ニセモノ茶陶でもその位はしますから、そのように訊いてくるお客さまでは、好みも技量も店主は計りきれない訳です。

例2です。平安・鎌倉の仏教美術を数万~数十万円までで探している場合です。「平安や鎌倉の仏教美術が好きなのですが、あまりお金がありません。それでも買えそうなものはありますか?」。ここでのポイントは「平安・鎌倉の仏教美術」です。好みの範囲を限定して訊ねていますので、店主は在庫を思い出すのが容易になります。また「あまりお金がありません……」で、それ相応の品を持っていれば見せやすくなる訳です。

次は悪い例です。「残欠でも良いのですが、平安・鎌倉のものはありませんか?」。予算がないと、ついそんな風に訊いてしまう場合があると思います。これでは、手頃な残欠がなければ何も出てきません。また、仏教美術を専門に扱う店では、残欠類は店主が大切に蒐集してきた品が多いですから、初見のお客様に「ハイ、では……」と秘蔵の品を取り出して見せてはくれないと思います。「残欠なら安いのでは……」と思われている方がいるなら、それも大きな間違いです。平安・鎌倉の仏教美術では、数十万、数百万の残欠も数多く存在します。

例が長くなりました、スイマセン。好かれる客のポイントは「素性をはっきりさせる」です。それは、「あなたの好みと懐具合を伝える」ことに他なりません。信頼できそうな店主に、信頼される(好かれる)客となるポイントは、実はこの1点のみです。

「何にも知らぬ初心者の素人だから……」と騙しにかかるようなお店を、良いお店(好みのお店)と勘違いするような方が青花ネットにアクセスし、このブログをここまで読んでくださるとはとても思えませんので、どうかあなたのカンを信じてください。あなたが「このお店なら……」と思った店は、以上の点に気を付けてさえいれば、間違いなくあなたにとって良い店となってくれます。

店にいる客を見たことのない、気難しそうに見えるお店でも、骨董屋の扉は特別に重くはありません。古美術・骨董に興味を持った熱心な初心者を拒むお店はありません。懐に一寸余裕のある時、何か買いたい病が出た時、どうか、前から気になっていたお店を訪ねてみてください。案外、そのお店があなたと縁の深いお馴染みとなってくれるかも知れませんよ。


高台寺蒔絵茶箱 桃山−江戸時代 高9.5cm

「高台寺」と云えば、秀吉の正室北政所(高台院)が秀吉と自身の菩提所として建立した、あの有名な京の高台寺です。その須弥壇や厨子の扉、寄進された調度類に施されている蒔絵文様に因んで、同じ意匠をもつ時代蒔絵を「高台寺蒔絵」と呼んでいます。大きな特徴は豊臣家の象徴である菊と桐文を配してあること。当時の着物(小袖)にも見られる片身替わりの構図や、秋草意匠も特徴として挙げられます。

平安鎌倉時代より現代まで続く蒔絵は、日本文化(美術)を代表するジャンルです。やきものと同様、各時代の嗜好(文化的背景)を色濃く反映しており、特にその意匠(デザイン)には時代による変化が的確に表れており、各時代の特徴を知れば鑑賞や蒐集にも確かな手応えが感じられるものです。

しかし、時代蒔絵は日光や湿度変化に弱く、長期間の展示には向きませんので、店頭で目にする機会も限られてしまいます。なかなか出会いのチャンスに恵まれないのが現状でしょう。若い骨董商の多くも、根来や味の木地盆、時代漆には熱心ですが、時代蒔絵となると一歩引いて……と云った感があり、残念に思っています。

多くの骨董愛好家にとっても出会いの機会が少なく、その所為もあるのでしょうが、「何やら高そう……」と敬遠されがちな存在となっていますが、現在「時代蒔絵」は、本来の価値から云えば驚くほどの安価と個人的には思います。

骨董の場合、その価値と価格は時代の嗜好にそって変動します。高いからスゴイもの、安いからダメなもの、と単純に言い切れぬところが骨董の奥深さでもあります。



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