手持ちの予算では足りぬ高い品が欲しくなり、店主に頼み込んで毎月の月賦払い。たいがいの蒐集家は使えるお金に限りがありますので、高価な品が欲しくなればそうなりがちです。飽きた品、失敗した品を処分したい……、これを引き取ってもらって、これを買わせてもらい……等、骨董の蒐集にはお金がかかります。ネットや催事だと、売り手にそうワガママも言えないのですが、親しくなった骨董店との付き合いとなると……ついムリなお願いをしたくもなります。

骨董店と良い関係が築けてこそ、良品蒐集も可能になるのですが、お金に絡むデリケートな事がらは、蒐集家にも初心者にもなかなかに悩ましい問題です。今回は、そんな皆さんの悩みの解決方法です。中には、それはキビシイ……と思われる内容もあるでしょうが、これを実践していただければ、間違いなく優良蒐集家として骨董界に名を残せます。

■返品
今はあまり業者間でも聞かれなくなった言葉ですが、かつては返品を「ションベン」と呼んで、骨董店主は忌み嫌っていました。「またションベンされたよ……」「あの人はションベンするからねー」と云う風に使われていました。「返品」の方がよほど耳ざわりが良いのに、あえて「ションベン」と云って嫌ったのです。返品は、それほど骨董屋にとってはイヤなことなのです。いつの世も「骨董屋がされてイヤなことトップ3」に入るのは確実でしょう。イヤ、ベストワンかも知れません。

中には、買ってすぐに他店で見せ、けなされたので返品すると云う猛者(モサ)の話も聞きます。こうなると、もう近しい業者間では話題(伝説)となり、たとえ一度のことでも「あの人は他所で見てもらって、けなされると返品する客」と見られてしまい、噂は瞬く間に、秘密裏に共有されてしまいます。ある意味 SNS よりも手強く、こうなるともう言い訳は通用しません。

何だか、返品されるのがイヤなので、業者である私が大袈裟に言っていると思われる方もいるかも知れませんね。その通りかも知れません。でも、再度書きますが「ションベン(返品)」はそれほど店主に嫌われている行為なのです。

もし、これから先、楽しく充実した蒐集家人生を目指すなら、ぜったいに返品はしないでください。たとえ店主の見落しで、買ったときには気づかなかったキズや補修が後で判ったり、買った品が巧妙なニセモノだと判明した場合でも……です。理不尽な様ですが、理由の如何にかかわらず「買った品は返品しない」、これを信条としていただければ、優良蒐集家の第一歩は確実に歩めます。

なぜ理不尽なまでに「NO! 返品」にこだわるのか……についてです。

■返品はしない
では、買うときには気づかなかったキズや補修、精巧なニセモノだった場合は「どうしたらよいのか……」です。自身の不甲斐なさを責めて泣き寝入りする必要はありません。「かくかくしかじか……であった」と、買われたお店へ品を持参して伝えてあげれば良いのです。店主の方では恐縮して、「すぐに引き取ります」とか「その分を値引きせてください」とか言うでしょう。そこで「はい、では……」ではいけません。笑ってこう応えます。「一度は私が気に入って買った品です。返品はしません(値引きはけっこうです)」。店主には、ほとんど神の言葉と聞こえるかも知れませんね。

「あの品は他所からの預かりで……」とか、「今さら……」とか応えて、対応を渋る店でしたら、「それは、それは……」と笑って、そのお店にはもう二度と行かないことです。

無キズと思って高く買ったのに、キズが出てきては大損……かも知れませんね。ここはひとつ、大損していてください。次にそのお店で目あての品を見つけたら、「この前のこともあるしね、まけて……」と笑顔で伝えれば確実に効きます。たぶんですが、前の大損を超えて効きます。優秀なコレクターは、ただ泣き寝入りしている様ではイケマセン。倒れても(?)立ち上がることが大事です。

お金の話も、長くなりそうです。続きは次回、借金(分割払い)のお話です。もう、耳のイタイ人がいるかも……ですね(笑)。


織部筒向付陶片 桃山時代 高10cm

片側から見ると、陶片とは云え「呑めそう」ですが、反対側を見れば「あーザンネン」となります。この「あーザンネン」はどこから生じた思いかと云えば、先の「呑めそう」が要因です。呑めそうに見えたけれど、呑めずにザンネンな品、と気持ちが動くわけです。こうなるともう何を説いてもムダです。吊るし柿でモダンな縞文、発色も強く云々……。私の心の中の呟きにしかなりません。「まあ安ければ……」と訊ねられれば、「これがまた、けっこう高く買ってるんですよー」と応えるしかなく、「あーそうなんだー」となり、万事休すです。なぜ使えもしない陶片を、売れもしない高い値で買ってしまったのか……と後悔しているかと問われれば、「いやいや」と、少し強がりは入っていますが、笑って応えます。この「織部筒向付陶片」の名誉のために付け加えておけば、私はこれが好きで買っています。美濃ものの勉強や参考のために買ったのではありません。



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