二十数年程前の私のパソコンに対する知識は、最近はインターネットが普及し、Yahoo!がその中心となっている様だ……と云う程度のものでしたが、骨董を生業とする同業の多くもその程度の知識であったと思います。そこで、まずはノートパソコンを買って使い方の勉強から始めましたが、全てが入門雑誌を見ながらの独学で、行き当たりバッタリのやり方です。そんなスタートでしたので、いまだにキーボードは右手中指1本でしか打てませんが、慣れてしまって不自由を感じたことはありません。

■ノークレーム、ノーリターン
ヤフオクでネクタイや引き出物を売り始めてまもなく、売り物が底をついてしまいました。そう簡単に次の買い取り依頼もやってきません。雑多な荷の出る郊外の市場で、古い映画のチラシやパンフレット、戦前の印刷物などを仕入れては何とか出品を続けていましたが、今のように骨董を出品する様になるには、まだ少し時間(準備期間)が必要でした。と、云うのも、当時、ヤフオクの骨董(アンティーク)分野の実情は酷いものでした。ヤフオクの骨董は、数多くある出品ジャンル内の一部、あるいはそれ以下の扱いであり、出品点数もまだ少なく、“いくらででも売れてくれたら儲けもの、騙されて(欲で)買った方が悪い”と云った詐欺まがいの出品者ばかりが目につく状況でした。

今では想像もつきませんが、写真の下手な素人を装い、ピンボケ写真を載せて、曰く「祖父が戦前に……」、曰く「実家の蔵から……」との謳い文句で入札者を誘います。もちろんそれらは明らかな贋物で、落札品が届けば悲惨な結果は目に見えています。そこで「ノークレーム、ノーリターン」と云う絶妙なフレーズが生まれます。落札者はダメな品が届いても泣き寝入りです。出品者はIDネームのみで、匿名性があり、素性が知られることもありません。評判が落ちてきたら、また別のIDを取得して、同じような手口で出品を続けることも可能であったでしょう。テレビの「なんでも鑑定団」で、「ネットオークションで買いましたね」というコメントが、欲で怪しい品に手を出しましたね……的な意味合いで、面白おかしく使われていた時代です。

多くの骨董ファンにそんな風に思われていたヤフオクに出品すると云うことは、“売れたら儲けもの”一味に加わることを意味します。商いとしての確かな手応えは感じられるネットオークションですが、“売れたら儲けもの”一味の仲間入りは困ります。骨董を出品するには、まだ大きなリスクがありました。

■海外では
パソコンに慣れはじめた頃、海外のアンティークサイトへアクセスしてみました。欧州の古いガラスや古陶、カトラリー、それと欧米に渡った日本の古美術等を探して、です。西洋アンティークの値段はよく知りませんでしたが、ネットでのやり取りの勉強を兼ねて、そのような海外の通販サイトからの買い物も増えていました。

その中で学んだことがあります。海外の通販サイトでは、出品者の所在をしっかりと伝える各店のHP(ホームページ)と商品が連動しており、ネットでも顔の見える、公正な商いが行なわれていました。それが信頼や安心感につながっているのだと実感することができました。

■kurihati88
そこで栗八も、骨董を出品する前に、ヤフオク専用HPを作ることから着手しました。店の紹介はもちろんですが、不特定多数の方がアクセスするネットの世界ですので、骨董やネットには初心者の方も多いだろうと考え、(入札前の)「質問へのお応え」ページや、出品に即した「特集資料」ページも開設しました。栗八のHPは、制作当初のままで古いのですが、一部は今も残っています。興味のある方はご覧になってください。

骨董の出品をはじめて間もなく、京都郊外の廃寺からと云う、十数体の中世石仏が私たちの市場に持ち込まれました。翌月も十数体、その翌月も……と続きました。それらのほとんどを買い落としていましたので、店の前も後ろも石仏だらけ、“六本木化野”と冗談で呼ばれるほどの数です。ヤフオクに出品し、店でも展示会をして売りましたが、それでも多くが残っていました。そんな中、ヤフオクで石仏を買ってくださったお寺のご住職とのやり取りで、「残っている石仏をまとめて欲しい」と云う、うれしい話になりました。レンタカーの荷台に数十体の石仏を積んで運び、渡邊君と一緒に、お寺の広い庭先にせっせと石仏を並べたのも、今は懐かしい思い出です。


懐中時計 江戸時代 16.6×5.2cm

美しさや味わいでは価値を語れぬ品も骨董にはあります。今回紹介する「懐中時計」もそんなひとつでしょう。黒漆の外蓋に「昼夜重宝懐中板時計」と書かれてありますので、江戸時代に旅人等が懐中し、折々に時刻を測った道具(時計)の様です。時計本体の裏には「京 天文具司 多賀谷環中仙考」と、製作者らしき名前が金蒔絵で入っています。調べましたら、江戸後期のからくり人形作者として、著書もある人物と判りました。この懐中時計も売り出された頃には、今のiPhone並みか、それ以上に注目された存在であったのかも知れませんね。

私には知識がなく使い方を知りませんので、宝の持ち腐れですが、よく見れば味も良く、漢数字の細かく彫られた文字盤にも、時代を彷彿とさせる美しささえ感じます。最初に、“美しさや味わい以外の骨董”と書きましたが、この懐中時計も、美しさと味わいをしっかりと備えていた様です。





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