撮影|森岡督行(2点とも)

7月2日(火)

今夜、杉本博司さんを鈴木ビル内の劇場跡にお迎えし、「太平洋戦争はなぜはじまったか」をお聞きするにあたり、改めて杉本さんの『苔のむすまで』を読み、「カメラが記録はしますが記憶はしないということです」という文に線を引く。夕方、渡邉康太郎さんとトーク内容の確認。杉本さんが戦時中のものを収集する理由は、戦中の体制を肯定するわけではない。この点、誤解のないようにしなくてはならない。60名以上の方から予約をいただいている。「トラウトマン工作」から話をお聞きする。杉本さんはハル・ノートをテーマにした自作の謡を詠みあげてくださる。ハル・ノートをめぐる日米交渉の顚末が、杉本さんの声と一致して劇場跡に響く。最後にさしかかり、杉本さんの身体は小さく震えていた。私は真珠湾攻撃を伝える新聞を思い出した。かつて現代の情報を遮断して、昭和16年の新聞情報に切り替えたことがあったが、杉本さんが行なっているのは、新聞だけではない。膨大な量の現物から、当時を追体験しようということではないか。杉本さんの声をきいて、今さらながら理解できたような気がした。


7月3日(水)

丸ノ内線にて新宿三丁目へ。らんぶるにて、谷口智則さんと宮古美智代さんと来年2月の販売会の打ち合わせを行う。その後、DISC UNIONにて、中古レコードを見る。普段は、あまり中古レコードを探すことはないが、大洲で行うイベントで好きな曲をレコードでかけるという企画があるため。「戦場のメリークリスマス」のピアノ版が最初に収録されたアルバム「Coda」を購入する。2000円。


7月4日(木)

12時30分、谷川俊太郎さんのご自宅へ。途中遠山さんと合流。遠山さんが取得した北軽井沢の旧谷川山荘について相談。今後、ザ・チェーンミュージアムの拠点として、詩の朗読や音楽のライブなどを企画していく。その場所にしかるべき名前の名付けを俊太郎さんにお願いする。谷川賢作さんともお会いする。8月末に詩と音楽の会の開催をお願いする。


7月6日(土)

東京ステーションホテルのラウンジにて、諏訪敦さんと成山画廊の成山さんと面会。「1冊の本と1点の作品」の打ち合わせを行う。成山さんが持つ不思議な雰囲気が東京ステーションホテルの空間で増幅されている。諏訪さんは「会期も1日だけがいい」と言った。私も同感だった。夜、店内に鈴木康広さんをお迎えして『AXIS THE COVER STORIES』展のトークイベントを開催する。


7月7日(日)

最終の新幹線で京都駅へ。駅のホテルに宿泊。


7月8日(月)

京都駅から近鉄特急に乗り、奈良県川上村の大和上市駅へ。京都駅からおよそ1時間半かかる。くるみの木の石村由起子さんとそこで合流し、さらに車で20分。向かう先は吉野川沿いの大滝茶屋。名物の「柿の葉寿司」の取材を行う。お店の脇には、文字通り、二つの滝が音を立てている。お店を切り盛りするのは、北垣内紘子さん、丸谷朝子さん姉妹。笑顔で出迎えてくださる。ちょうど柿の葉寿司をつくりはじめる時間だったので、まずはそれを見学。柿の葉は、1枚1枚、ふきんで丁寧にふいて、小さなほこりをとる。この時期、1日500個から600個つくるという。大滝茶屋は、紘子さん朝子さんのお母さんが56年前にオープン。元はと言えば、家族のため、子どものためにつくった料理を姉妹が忠実に受け継いでいる。


7月9日(火)

松林誠さん『青い蝶』の展示販売会がはじまる。青い蝶、青い花、青い海など青の世界の作品とともに書籍を販売。夕方、トークイベントを開催。松林さんのよさこい節を披露してくださる。ゲストの佐藤奈々子さんも、即興で歌詞を作り歌ってくださり、陽気な高知にいるような夜を過ごす。


7月11日(木)

午後、表参道のグッチへ。グッチは世界中にグッチプレイスというものを設けているが、来年弊店がその一つになるかどうかという相談。共同開発した鞄や財布などを、引き出しの中にしのばせて販売する案などを提案する。


7月12日(金)

午後、石村由紀子さんと遠山正道さんと会談。その後、半蔵門線で清澄白河へ。半蔵門線の車内で三浦哲生さんと遭遇する。東京都現代美術館にてTOKYO ART BOOK FAIRの取材。タクシーで東京駅に移動し、新幹線で山形へ向かう。


7月13日(土)

『山形建築ガイドブック』の編集会議を行なう。文化庁と東北芸術工科大学の人材育成プログラム。市民が、自身の体験にもとづいたテキストで山形の建築を紹介する。わたしは、黒川紀章が設計した寒河江市役所と山形ハワイドリームランドを担当する。建築ではないが、山形県立博物館に収蔵されている、ブルーノ・タウトがデザインした「木の匙」についても調べようと思う。


7月14日(日)

鎌倉駅で下車し、バスに乗り換えて、YAECAのink galleryへ。三谷龍二さんの「いまここに繋ぎとめるものたち」展を拝見する。会場は吉村順三の建築を中村好文さんがリノベーションした邸宅。Kの文字をイメージした三谷さんの絵画作品を見て「木工デザイナーとしての自分が、画家として自分に投資している」という内容を、以前、雑誌の誌面で読んだことを思い出す。庭に出ると木々のあいだから海が見える。スプーンをつくるワークショップを終えた三谷さんと少し話をする。


7月18日(木)

昼、昼食の席にて、場所にもとづいた超高層ビルのコンテンツとして、渋沢栄一蔵書館を提案する。ビルの内部に渋沢栄一が集めた和漢籍・洋書、特に論語関係を中心とした蔵書を再構築する。本物の蔵書は、都立中央図書館に所蔵されているから、それを参考にする。マンハッタンにある、モルガン・ライブラリー&スタディをモデルとして、約20ドルほどの入場料をいただく。蔵書は手にとって閲覧することはできないが、QRコードがついていて、それをスマホで読み取ると、内容を可視化したデジタルアートが展開される。次期1万円札は渋沢栄一になるし、NHKの大河ドラマでも取り上げられるということなので、開業時、話題になるだろう。渋沢栄一について講演会も企画する。などなど。夜、神保町のテラススクエアにて、トークイベントに参加。加藤孝司さんと一緒に、池野詩織さんのお話をお聞きする。池野さんは、以前、花代さんの出版記念展のときに会場撮影をしてくださったことがあった。


7月20日(土)

あけび籠職人の中川原信一さんをお迎えしてトークイベントを開催する。写真家の白井亮さんが中川原さんのからだの柔軟性を指摘する。籠づくりが、単にあけびの蔓を編むことではなく、中川原信一さんが長年培ってきた、水や乾燥などへの、細やかな心遣いがあることがわかる。秋田の自然と共生し、季節の変化と仕事が密接につながっている。


7月21日(日)

朝の飛行機で松山空港へ。丸福農園の楠瀬健太さん、小林和人さんと合流。伊予市の朝日食堂にて中華そばをいただく。大洲市に移動。14時から、小林和人さんと、「ハヤシモリが選ぶ この一冊・この一品・この一曲」 をテーマに、大洲市のSa-Rahにてトークイベントをさせていただく。ハヤシモリとは、小林和人さんとのトークユニットで、約3年ぶりに声がかかった。私は「この一冊」にブルーノ・タウトの『NIPPON』昭和9年版、「この一品」として約15年前に古道具坂田で買ったデルフトのタイルを持参。「この一曲」として坂本龍一「戦場のメリークリスマス」をかけてもらう。飛松灯器の飛松弘隆さんと、U'U'の小駒真弓さんとも会場で合流。浴衣に着替える。前半は、おのずと「生活工芸」についてのトーク内容になる。企画してくださったSa-Rahの帽子千秋さんありがとうございます!


7月22日(月)

昨年も訪れた、臥龍山荘を再訪する。昨年は水害の直後で、周囲の堤防などが陥没していたが、それらは復旧していた。不老庵にて畳の上に横になるとすぐに眠りに落ちる。天井が竹で編まれていて、十五夜の日、肱川の水面に反射した月光がこの天井を照らすという。夜に入場することはできないから、それがどんなものか想像してみたりする。


7月26日(金)

午前、11月に出版を予定している長野史子さんのガラスの撮影を行う。午後、WONDER FULL LIFE 『Rippling』展のトークイベントを鈴木ビルで開催する。『Rippling』は、写真家の中川正子さんが、WONDER FULL LIFEを主催する大脇千加子さんの作品と奄美大島の制作風景に心動かされ、衝動的に出版された写真集。


7月28日(日)

午前、次女が運動会で履くスニーカーのリサーチを行う。短距離のリレーに出場。アシックス、アディダス、ニューバランスなどを検索する。オッシュマンズの店員はスイスのonを勧めてくれた。HOKAONEONEは『ペーパースカイ』の編集長のルーカスさんが履いていた。ミムラボはライターの成澤さんに教えてもらった。さまざま検索してみる。


7月30日(火)

GINZA SIXへ。来年出版予定の1960年代の銀座の写真集では、GINZA SIXの前身である松坂屋のエントランスで撮影された、64年の東京オリンピックの選手の写真がある。そのため、エントランスの吹き抜けのスペースで、出版記念イベントを実現できたらと提案させていただく。





前の日記へ  次の日記へ

トップへ戻る ▲