昨年の「歴史のかけら:古代と中世の西洋骨董」展につづき、毛涯達哉さん出品による展示です。今年の春、西洋史家のAさんと毛涯さんと3人で会うことがあり、毛涯さんが手に入れたばかりのスキタイの轡をとりだしてみせたところ、Aさんは絶句していました。東京の春の宵の居酒屋で、二千数百年まえにユーラシアの草原をかけていた馬をしのぶ(実感する)ことになるとは。骨董とはそういうことなのかもしれない、と考えた夜でした。歴史を実体化するもの。


会期|2020年7月31日(金)−8月9日(日)
   *7月31日は青花会員と御同伴者1名のみ
時間|15-19時
会場|工芸青花
   東京都新宿区横寺町31-13 一水寮101(神楽坂)
出品|毛涯達哉(ルィノク・ヴレメニ)


毛涯達哉 Tatsuya Kegai
古美術商。1980年東京生れ。東北大学で古環境学、古生物学を専攻。大学院中退後、クラシック音楽関係の会社に就職。仕事の合間に独学でロシア語を習得し、2014年にサンクトペテルブルクへ移住。ロシア内外を旅しつつ、オリエント及びロシア正教の美術品を中心に紹介している(屋号は「ルィノク・ヴレメニ」)。学術的知見を重んじつつ、日本的感性に訴える蒐集を目指す。ロシアではアマチュア・ピアニストとしても活動。
https://www.instagram.com/rynok_vremeni/



今展によせて   毛涯達哉


古代中央ユーラシアの騎馬遊牧民族の中で、最も知られているであろうスキタイ。紀元前9世紀から前4世紀頃にかけて、黒海からシベリアにいたる広大な文化(スキト・シベリア文化)を形成しました。スキタイがペルシア軍を撃退したことから、その戦術と機動力にギリシアの歴史家ヘロドトスが強い関心を持ち、著書『歴史』にスキティア(黒海地方のスキタイの地)について記したこともよく知られています。スキタイ文化の起源は、東アジア(中国、モンゴル、カザフスタン)、西アジア(イラン)、北アジア(シベリア)など諸説ありますが、それは各地の遺物に見られる動物意匠と、スキタイのそれとの類似が根拠とされています。スキタイ美術には、広域にわたる文化伝搬の痕跡が宿っているのです。

スキタイ美術というと黄金製品ばかりが強調されがちですが、本拠地の黒海周辺では、ギリシアとの交易によってもたらされた装飾品がより多く見られます。一方、今展で紹介するような馬具を中心とした青銅器は、展覧会等ではあまり注目されないものの、じつはスキタイ独特の動物意匠が色濃く見られる品々です。複数の動植物が溶けるように混在する様式は、自然と深く関わった彼らの知的欲求に応えるものだったように感じています。

初めはお客様の要望で探し始めたのですが、スキタイについて知るには、ロシアに住み、ロシア語を話すことが大いに役立ち、古美術商としてのアイデンティティを確立することにもつながりました。黒海地方に行けば何かあるはず──とウクライナまで足を伸ばし、そこで得られた経験が、いまの私の「現地で学び、探す」スタイルのルーツです。世界各地を飛びまわり、さながら遊牧民のような日々ですが、願わくば皆さんに歴史と文化の魅力を運ぶ役割を果たせたら、と思っています。














上から
轡・馬勒一式 紀元前5-前4世紀 青銅
馬勒 紀元前5-前4世紀 青銅
飾板 紀元前5-前4世紀 金
馬勒 紀元前5-前4世紀 青銅
轡 紀元前6-前5世紀 青銅・鉄
鏡 紀元前5-前4世紀 青銅
鏡 紀元前6世紀頃 青銅
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