16年まえから、美術史家の金沢百枝さんとロマネスク美術の取材をつづけてきました。『芸術新潮』、「とんぼの本」シリーズ、そして『工芸青花』と、記事を掲載する媒体はかわりましたが、現地での取材のやりかたはあまりかわりません。よくみること、ねばること。

疫病流行により、2020年から取材の旅にでられません。金沢さんと、「はやくゆきたいねえ」といいあうのもあきてきました。そこで今回、はじめてのことですが、金沢さんの調査ノートと私の写真を、ともに展示することにしました。以下の金沢さんの文にもありますが、21世紀初頭に生きる日本人ふたりが、縁あって西欧中世の教会美術に接し、感銘をうけつづけていることの記録です。(菅野)


会期|2022年6月24日(金)-28日(火)
   *6月24日は青花会員と御同伴者1名のみ
時間|13-20時
会場|工芸青花
   東京都新宿区横寺町31-13 一水寮(神楽坂)
出品|金沢百枝(美術史家)
   菅野康晴(『工芸青花』編集長)








旅の記録   金沢百枝


2006年以来ほぼ毎年、菅野さんとロマネスク取材をつづけてきました。生きているあいだにすべてのロマネスク聖堂をみることは、もちろんむりだろうけれど、できるかぎり現地へいって、彫刻や壁画のまえに立ち、堂内のひんやりした空気で胸をみたしたい、と渇望してきました。一眼レフと望遠レンズと三脚をかかえて山をのぼるときなどは青息吐息で、「いつまでつづけられるだろうねえ」と話していたものでした。それでもあと何年かはつづけられるだろうと思っていたのに……あれから2年たちました。

ふりかえると、この十数年間のロマネスク取材の記録は貴重なのではと思い、展覧会をすることにしました。ロマネスクをめぐる旅の記録です。

2006年9月イギリス/07年8月ノルウェー/10年3月イタリア北部/11年3月イタリア中部/12年5月イタリア南部/14年5月フランス/15年9月スペイン/16年8月スイス/17年3月バルセロナ/17年9月フランス、オーベルニュ地方/18年3月フランス、マルセイユ+アヴィニョン+イタリア/18年9月フランス、ブルゴーニュ地方/19年3月イギリス/19年8月フランス南西部+ロシア

企画を考えたきっかけは、アメリカの美術史家、美術批評家マイヤー・シャピロ(1904-96)の本『旅路のマイヤー・シャピロ─リリアンへの手紙と旅手帖』(原題:Esterman, D. (Ed.), Meyer Schapiro Abroad: Letters to Lilian and Travel Notebooks, Getty Publications/Los Angeles, 2009)でした。博士論文のための調査で渡欧したシャピロが、妻で医師のリリアンにつづった手紙には、はじめてロマネスク美術──サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院回廊の彫刻など──をみたときの感動が記されています。写真撮影が大変だった時代ですから、スケッチやメモがこまかくていねいで、我が身をふりかえり、頭がさがります。

ヨーロッパ在住のロマネスク美術研究者とちがって、シャピロも私たちも、ロマネスクがとくべつと感じているから、はるばる旅をしているのです。晩年のシャピロはモダンアートの批評家としても活躍していて、日本ではむしろ現代美術の紹介者として知られているのですが、若き日のシャピロがロマネスク美術の研究者だったことは、モダンアートとロマネスクをつなぐもうひとり、アンジェリコ・シュルシャン修道士(1924-2018)の存在とともに、あらためて考えるべきことかもしれません。








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