*この連載は seikanet(骨董通販サイト)の関連企画です


48 法隆寺天平古材





天平古材と呼ばれる、木目の詰んだ檜の良材で、法隆寺の焼印が捺されています。これらは法隆寺に点在する古建築を修理した際に、傷んだ箇所を取り替えるために外された部材です。中には外されたままの姿で残る大きな材もありますが、多くは簡単な加工が施され、香合や花器、炉縁等に姿を変えて頒布されてきました。掲出の古材は花器のための加工はされておらず、落としもありませんでしたが、ほぞの凹みに小さな銅の落としを作ってもらい、花器としています。花は咲き始めた利休梅、枝ぶりも花ぶりも美しいもので、手折ったひと枝を挿すだけで絵になりました。




光さんのこと その6


谷保天会の帰りがけ、私が荷をまとめていると光さんがきて、「あれ(李朝壺)、何で競ったんだよ」と笑顔できいてきました。「何か儲かりそうな気がして……」と、こちらも苦笑いで応えると、「俺は〇〇会での売るつもりだから、良かったらノリにする?」ときいてきました。

骨董屋の売買には「ノリ」と云う独特の商いがあります。仕組みはこうです。谷保天会で光さんの買い落とした李朝の壺が10万円とします。それを私とノリにした場合、買った額を折半して負担します。つまり10万円の半分(5万円)を、私が光さんに支払うことでノリが成立します。

李朝の壺は約束どおり、光さんによって◯◯会に出品されました。競り落とされた金額は15万円。会の手数料(5%)を差し引くと142500円。利益は42500円となりますが、折半ですので、その半分21250円が私の取り分(儲け)となる仕組みです。

光さん一人で売れば、まるまる4万円を超える儲けのある品を、どうして利益の半減するノリにするのか……と不思議に思うでしょう。これは利益を独占しない骨董屋同士の友情……と云うつもりはありません。ノリは利益も半分ですが、リスクも半減してくれます。10万円で買った李朝の壺が5万円になってしまった場合でも、ノリなら損は半分で済みます。利益もリスクも半減させて仕入れることのできるのがノリです。また、同じ品を二人が競り合い、値を釣り上げてしまうことも回避できます。

光さんと私とのノリは、時々ですが以後もしばらく続きました。谷保天会に、互いが儲かりそうだと思える品が並ぶと、光さんが暗黙のうちに察して、手に取った際にチラリと私を見ます。それに対して私は小さく頷くだけでノリが成立します。あまり乗り気になれない時は、目を逸らすか首をちょっと傾げれはノリにはなりません。この様な品は月に1度の会で1点あれば良い方で、そうお互いの思惑が一致する品は出てきません。それでも数ヶ月に1点の割合でノリの売買が続きました。

私は光さん以外とノリで売買したことがことがありませんので、他の骨董商との比較はできませんが、私たちのノリは100%儲かりました。すべての品で何がしかの利益が出ています。額は数万円を超えることはなかったのですが、これは二人のノリのセレクトが、堅実に利を生みそうな品に限られていたことが大きかったからと思います。もしかしたら……的な掘り出し狙いや、二人の理解(知識)の及ばない品には一切手を出さなかったことが大きな要因だったと思います。

谷保天会が国立の谷保天満宮から立川へと会場を移すことになり、それに伴って私は顔を出すことも減りました。光さんとのノリも自然と解消してしまいました。ある日の集芳会で、光さんに「ちょっと」声をかけられ、会場の隅へと連れて行かれました。「ちょっと訊くけど、Mさんはちゃんと払ってる?」と集芳会の支払いのことを唐突に訊ねてきました。「うん、払ってると思うけど……」。会の会計は私の担当ではないので、実はよく知りませんでした。「気をつけた方が良いよ」。光さんはそれだけ言うと、会場へと引き返して行きました。会場にはMさんのいつもと変わらぬ姿がありました。



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