21 春日古材莨盆他


椿三昧
赤、白、八重の美しい椿ですが、これは栗八の屋上生まれではありません。栗八の脇は比較的大きな墓地で、墓地を囲む様に様々な木が植えられています。その中でもひときわ見事なのが椿で、赤、白、八重共に、栗八の小路に沿った塀際で花を咲かせてくれます。塀は私の胸の高さほどあるブロック塀で、その上には粗い目の金網も付けられていますので、塀を越えて墓地側へ降りることはできません。

椿を頂戴する(手折る)には、小路で椿の咲き具合を確かめてから、ブロック塀にヨイショと登りますと、狙った花の高さとなります。更に金網があるため、折り取るには金網の間に腕を差し込み、目指す枝を摑まなければなりません。その様子は、檻のチンパンジーが金網越しに餌を取ろうとする、あの動作と同じです。

この格好は人に見られたくないので、人通りの少ない、昼下がりの時間帯を見計らって決行するのですが、運悪く通行人に出くわすこともあります。どうするかと云えば、開き直って、餌取りチンパンジーを続けます。ほとんどの通行人は見て見ぬふりで通り過ぎてくれるので助かりますが、「こう云うオヤジとは関わり合いにならないほうが良い」と、本能的に判断されているのかも知れません。

よそ様(それも墓地)から椿を盗んで、罪悪感は……と問われそうな所業ですが、椿はけっこうな大木で、私が手折った程度ではまったく花の様子に変わりはありませんし、毎年花の盛りの頃(2月の末)に植木屋さんがやってきて、何の躊躇いもなく花も枝もバッサリと剪定されてしまいます。小路の掃除や打ち水、ついでに椿への水やりも栗八がやっていますので、ちょっとおこぼれを頂戴するくらいは良いでしょうと、自分を納得させています。

春日古材莨盆
虫食いの多い、枯れた白錆の古材莨盆です。外箱には春日古材と書かれていますので、春日大社の何れかの社の傷んだ部材が取り除かれ、莨盆に転用されたものでしょう。「もったいない(無駄なく使う)精神」は、骨董数寄者にとっては、昔から当たり前のことの様です。





古銅花入
赤椿は毎年多くの花を咲かせますが、白椿は僅かしか咲かない年もあります。そんな年は、木もお休みかなと思い、花は手折らずにおきます。器は古銅の花入、王道ですね、椿一枝が絵になります。





ガラス蓋もの
規則正しくひらく八重の椿(花びら)には、宇宙の法則を感じます。何故か理由は判りませんが、この花弁の広がりこそが、私にとってはcosmicです。器は薄灰の透明なガラス蓋もので、閉じると球形になります。蓋に割れがあり金直しがしてあります。これは大吉さん、さる山さん、内田鋼一さんが青山でやった展示会で見つけ、買わせてもらったもので、何に使われたものかを知りませんが、「八重の椿を……」と、買う時には決めていました。





漆大鉢
毎年、花の盛りに剪定される椿の枝には、まだ数多くの花や花芽がついています。植木屋さんに頼み、切られた枝を全部もらって床に……と、大量に切られた枝を見て、毎年思うのですが、言い出せずにいます。麻袋に詰められた椿は焼却処分されるのでしょう。山中に咲いて散る藪椿の自由さを思うと、墓地の椿が少し可哀想に思えてきます。







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