*この連載は seikanet(骨董通販サイト)の関連企画です


47 縄文大鉢





縄文土器の大きな鉢です。割れていますが、割れ方も含めて気に入っています。花は葉山葵と菊の若葉や、様々な春の下草です。山葵は食べる訳ではなく、ただプランターに植えているだけで、時が経てば枯らしてしまいますのですので、もったいないことです。縄文鉢に生けたのは土ごと根こそぎです。撮影が済んだらまたプランターに戻すのですが、鉢に良く収まっており、戻すのがもったい気もします。




光さんのこと その5


ハタ師の続きですが、その前に。

骨董屋になったばかりで、まだ市場(業者間の交換会)にも行ったことのない方は、市場へ行けば好きな品が安く買えて儲かる様になると思うことでしょう。私もそうでしたから、気持ちは分かります、結論から云えば、市場は好みの品を安く買える場所ではありませんでした。

むしろ市場の方が高い場合が多々あります。市場に参加できることになり、「これからは好みの品が安く買える」と勇んで出かけてみれば、買いたい品はどれもこれも高い。「高過ぎて買えない」となり、意気消沈して帰ってくるのが相場です。皆が欲しがる様な品を安く買うなんてことは無理に決まっているのですが、市場に抱く幻想(良い品、好きな品が安く買える場所)が、そう思わせてしまいます。そんな夢の市場は存在しません。

「高くて買えない」となると、では「手持ちの高い品を市場で売ってみよう」と考えます。私もそうでした。これも自然の成り行きです。いざ売ってみれば、10万円で買った品が数万円。買い値の3分の1で売れれば良い方で、中には誰からも競り声のかからないことさえあります。つまり、市場で売ろうとしても、買ってくれる人さえいないと云う惨めな品もあるのです。それが、骨董市場の現実です。

さて、ハタ師としての光さんに戻ります。ハタ師は、A市場で10万円で買った(仕入れた)品を、B市場(別の市場)へ持ち込んで売ります。15万円の声がかかれば売り、8万円の声しかなければ売らず、また別の市場で再度売りに出します。ハタ師とは謂わばこの繰り返しです。毎月決まった日に開催される幾つかの市場へ定期的に顔を出し、(他の市場で)高く売れそうな品が出れば競りに参加し、自身が(他の市場で)仕入れてきた品を出品する。市場での売り買いに積極的にかかわるのがハタ師の常ですので、市場主にとっても貴重な存在です。

10万円で仕入れた品がすんなりと15万円で売れてくれれば手早い商いで、ハタ師ほどラクな仕事はないのですが、実情はそう簡単ではありません。例えば10万円で仕入れた品が11万の声で止まった時です。ほとんどの市場は売り代金の5〜10%を手数料として徴収しますので、11万円で売ると、5%なら5500円が手数料として会に差し引かれます。つまり手取りは10万4500円。4500円が儲けです。会に参加するには参加費(弁当代)や移動の交通費もかかります。地方に出かけるのであれば宿泊費も発生しますので、4500円の利益では、経費を差し引けば赤字でしょう。12万円で売れてギリギリの利益(稼ぎ)と云った具合です。これを、例に出した10万円の品だけでなく、数千から数万、数十万円、会によっては数百万円までの品を売買するのがハタ師です。

光さんがいくつの市場に出入りしていたかは知りませんが、私の参加していた数カ所の市場には顔を見せていましたし、いくつかの市場では振り手として、会の運営にも深く関わっていました。光さんの場合、商いのメインは数万から数十万の品だったと思います。毎回決まった市場に十数点の品を出品し、そのうち納得した値まで競り声のかかった品は売り、(他の市場で)高く売れそうな品が出れば競りに参加し、時にはそれらを競り落としていました。ハタ師には、儲かりそうな品なら何でも扱う(競りに加わる)タイプと、自身の専門とする分野以外にはほとんど手を出さぬタイプがあり、光さんは後者でした。売買では、自身の得意な鑑賞陶磁や李朝モノをもっぱら扱っていました。

ごく少数ですが、ハタ師の中にはひとつの市場で数百万円を超える売買をする猛者もいます。光さんの場合は(私の知る限りですが)、総額で数十万の商いが主でした。売買高を考えると、同年代の勤め人と変わらぬ収入であったと思います(今でも、多くの骨董商が同年代の勤め人より少ない収入で暮らしているのが現状です)。光さんは収入より、束縛のない自由を大切にしていた気がします。

ある日の谷保天会でのことです。李朝の染付壺が出品されました。その頃の私はまだ仏教美術や発掘品、古窯が専門でしたが、ヤフオクを始めたばかりで、李朝陶磁の根強い人気に気がついていましたので、安いと思えたその壺に競り声をかけました。普段はその様な品の競りに参加しない私が声を掛けたものですから、光さんが驚いて振り返りました。「買って、どうする気だ」と云った表情です。私が一瞬怯むと、すかさず光さんがその上の値を告げ、李朝の壺は光さんに競り落とされました。

帰りがけ、私が荷をまとめていると、光さんが「あれ(李朝壺)、何で競ったんだよ」と笑顔できいてきました。「何か儲かりそうな気がして……」と、こちらも苦笑いで応えると、「俺は〇〇会で売るつもりだから、良かったらノリにする?」ときいてきました。骨董屋の売買には「ノリ」と云う独特の商いがあります。また話が長くなりそうです。続きは次回に。



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