*この連載は seikanet(骨董通販サイト)の関連企画です


41 古銅花入ほか







■古銅花入
古銅の花器です。時代を経た箱に収まる本格的な器で、花(投げ入れを含む華道の基本)を知らぬ私にとっては少々手に余る器なのですが、仕事がら市場では時々、金味(かなあじ)、姿、状態の良い花器に出合います。普段は仕入れてもすぐに売ってしまうことが多く、自身の花に使ってみたのは、鶴首の一輪挿し以外では初めてのことです。余計なことは考えず、姿の良い侘助ひと枝を挿してみました。





■時代つけ木入れ
「へぎ(板)」と呼んだ、杉や檜を柾目にそって薄く割り剥いだ木片を入れてあった、シンプルで粗末な木箱です。「へぎ」はかまどなどの火を熾すつけ木として用いました。種火(マッチ)の小さな火を、一旦「へぎ」へ移し、その火をかまどや風呂の薪に焚べ、ご飯や風呂を炊きました。ガスの普及する以前は、どの家にも必要な「へぎ」であり、つけ木入れだった訳です。私が幼い頃の新潟では、まだあちこちの家の厨の隅等に、「へぎ」を入れた煤けたつけ木入れがあり、荒物屋(雑貨屋)では「へぎ」の束も売られていました。江戸時代とあまり変わらぬ人間の暮らしが、昭和30年代までは日本のあちこちに残っていた様です。





■時代鉄鉢
鉄鉢(てっぱつ)は禅僧の持ちもので、「応量器」「持鉢」とも呼ばれています。鉄板を薄く打ち延ばし、この様なカタチにしているのですが、どう打ち出せばこのカタチになるのか……と、いつも不思議に思っています。托鉢の禅僧が米や小銭等のお布施をうけた器であったのでしょう。

いれものがない両手でうける 尾崎放哉


植守さんのこと


真冬になると屋上の草木はほとんどが枯れ、目を和ませてくれる花はなくなります。その時期に咲いてくれるのが、店先の植え込みにある侘助です。12月から、春の野花が芽吹きはじめる3月過ぎまで途切れることなく咲いてくれます。

この侘助はお店を始めた三十数年前に植えたもので、今の木は2代目です。店を始めるにあたり店先の塀を竹垣にしたいと思い、庭師であり骨董商としても活躍していた、顔馴染みの植守さんにお願いしました。ついでに店先に、目印となる木を植えたいと思い、侘助を探して欲しいとお願いした次第です。

やがて青竹の清々しい塀垣が仕上がり、太い幹の美しい侘助が植えられ、これから古美術商としてスタートする私自身やお客さまを見守ってくれるような落ち着いた佇まいが整いました。

支払いの段になると、ついでにとお願いした侘助の対価分がありません。「侘助は開店祝いだから」と言われ、受け取ってもらえず、結局は植守さんからの思わぬ贈りものとなりました。

 開店後は、毎朝店先の掃除と打ち水が私の日課となりました。春に植えてもらった侘助は、夏に向かって艶のある青々とした葉を繁らせ、順調に根づいている様子で、花をつける冬の到来が待ち遠しく感じられました。

ある朝のことです。いつものように掃除を始めると、何となく様子が違います。ちょっとした違和感なのですが、そのちょっとの原因がわからぬまま掃除を終え、打ち水を初めて異変の正体に気がつきました。

侘助がありません。

植えられていた場所の土がめくれ、ぽっかりと穴が空いています。私の背丈を越える侘助の消失に気がつけなかった自分自身の迂闊さに少し腹立たしさを感じながら、近所を探してみましたが、どこにも見当たりません。

ここは六本木の路地裏、夜中に酔漢が暴れたり、悪さをしたりの出来事は時々ありますので、侘助も酔っぱらいがいたずらで力任せに引き抜き、そのまま引きずっていったのだろうと思っていたのですが、どこを探してもありません。男一人では持ち上げることも難儀な侘助なのですが、見当たりません。

突然の侘助の消失に途方にくれ、植守さんへ電話をすると「ああ、盗まれましたね」との返事、何のことかとびっくりして聞き返すと、「植木泥棒ですよ」と涼しげな声で応えます。もう少し詳しく訊いてみると、明るい昼のうちに、値の張るめぼしい植木を見つけ、夜陰に乗じて数人で持ち去るという荒業をやってのける輩がいるのだと……。植木泥棒の存在を初めて知りました。

植木泥棒に狙われるような高価な侘助を植守さんは贈ってくれていたのだと、電話での返答で初めて知ることになった私も間抜けな話です。どちらにしても植守さんには申し訳ない出来事となりました。

とは云え侘助はどうしても植えたいので 、「次は盗まれない程度の侘助を……」とお願いし、再度贈ってもらったのが現在の2代目です。順調に根づき、育ってくれて三十数年。今では幹の太さも枝ぶりも初代を越えて、毎年かわいい白い花をいっぱいつけてくれます。

植守さんは亡くなりましたが、今は娘さんが骨董商となり、張り切って仕事をしています。



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