*この連載は seikanet(骨董通販サイト)の関連企画です


50 掛花入2種 時代竹籠と唐木書鎮







花器は味の良い時代竹籠と、唐木でできた角棒です。唐木の棒は「李朝の書鎮」と云われ、そう聞くと何やら骨董的にもありがたい気分になり買ったものです。中心が丸くくり抜かれてありましたので、そこに入る銅の落としを作ってもらいました。ついでに掛けられるよう掛け金具も付けてもらいましたが、それが余計な注文だった様で、出来上がってみると、もうすっかり李朝の書鎮らしさは消えてしまい、シンプルな木の掛け花入れになっていました。「李朝の書鎮を、苦労して掛け花入にしました」と熱弁しても、骨董的ありがた味はすでに消えてしまった様な気がします。

花は屋上の山吹です。春は野山の山吹が陽に照らされて美しく輝く季節です。毎年、屋上に咲く数本の山吹を眺めながら、陽のあたる春の山道を思い浮かべています。






光さんのこと その8


延べ会での、苦肉の策とも云える金策方法とは……。

仕組みはこうです。簡単に云えば、自分で出した品を自分で買う(競り落とす)やり方です。延べ会の買い物の支払いは1ヶ月後でよく、売り物の代金は数日中に振り込まれます。この1ヶ月のタイムラグを利用します。例えば10万円で仕入れた品を述べ会に出品します。そこで思うほどの値段まで競り声がかからなければ、自分自身で10万円、あるいはそれ以上の金額で競り落とすのです。

15万円で競り落とせば、会の手数料5%を差し引かれても14万2500円が振り込まれ、品物も手元に残ります。但し、1ヶ月後に15万円の支払いが待っているのですが……。「月利五分で借金をしているようなものだ」と、このやり方を高利に例えた先輩業者がいましたが、そのとおりでしょう。年率では6割となる高利ですが、それでも金策に窮した業者は、このやり方で金策を繰り返します。明らかにその様な金策と分かれば、会でもその売買を断るか、それとなく注意することもあるのですが、売買は個人の裁量に委ねられているのが交換会ですので、よほどの事がない限り禁止はできません(注・現在は多くの延べ会で、本人が出品して本人が買い落とす場合は事前に申告が必要となっています)。

さて、Mさんの話に戻ります。私たちの会(集芳会)でも、ついに200万円を超える支払いが滞る事態となりました。光さんに警告されていたにもかかわらず、何の対応策もとらなかった(とれなかった)結果が、200万円を超える負債となった訳です。延べ会は「相受け保証」と云う、会の債務(支払い)に関して、連帯保証を行なう組(会の参加業者数名で構成)に入る事が入会の条件となっています。「相受け保証」内の1名が会の支払いに支障をきたした場合、その組の残る数名に債務の支払いが求められます。

文章で書くとややこしいのですが、簡単に云ってしまえば、「相受け保証」でMさんと同じ組となっている数名は、Mさんの支払い分200万円を、彼に代わって支払わなければならない制度です。Mさんが支払わない(支払えない)訳ですから、「相受け保証」の残る数名に代済を求めれば済む話なのですが、事はそう簡単ではありません。会がMさん滞納分の支払いを彼らに求めれば、「Mさんが支払えない(資金がない)」と云うことがおおやけになりますので、Mさんは取り引きの信用を一気に失います。骨董商として、商いに大きな支障が生じます。イヤ、大きな支障というより、骨董商として生きて行く道を断たれるといっても過言ではないでしょう。

そのため、まずはMさん自身に直接会い、支払い意志の確認をすることから始めました。「支払いたいけど、申し訳ないがお金がない」。Mさんの返答は、要約すればこうでした。「どうしたものか」と光さんに相談すると、「Mさんはいくつかの会で未払いはあるが、合計しても500万円程度だろう。会以外で、個人的にどこまで借金しているのかは知らないが、会の支払い程度なら店の品を全て処分すれば間に合うと思う。期限を決めて待ってみたらどうか」という応えでした。

私たちは光さんのアドバイスに従い、「あと2ヶ月だけ待ちます」とMさんに伝えました。2ヶ月後にMさんが支払えなければ、Mさんの相受け保証をしている組の数名に事情を説明し、Mさんに代わって支払いをしてもらうことになります。長く、重い、待つ時間が始まりました。

しばらくすると、光さんから、Mさんが「◯◯会の払いを済ませた」と聞きました。集芳会の未払い分も、約束の2ヶ月後には振り込まれてきました。相受け保証(組)の数名にMさんの一件を知らせずに済んだのですが、組の皆はすでにMさんの窮状を知っていたのでしょう。直接は聞いていませんが、「自己破産や夜逃げ、自殺をされずに済んで良かった」と云った想いであったのかも知れません。その後、Mさんは集芳会には出席しなくなり、他の会にも出入りすることはなくなりました。

しばらく経った頃、Mさんは店を閉め、お母さんと暮らしていた住まいも売却し引っ越して行ったと、光さんが教えてくれました。以降、Mさんを見かけたことは一度もありません。今はどこでどんな暮らしをしているのか、私は知りません。



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