20211231

今年もありがとうございました。ひさしぶりに帰省しました(栃木県宇都宮)。来年がよい年になりますように。





20211230

いま公開中の通信講座です。冬休みに、よろしければ。

●工芸と私12|遠藤薫+森岡督行|工芸の両義性
○公開|2022年1月10日まで|約90分
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=668

●工芸と私13|猿山修+沢山遼+山本千夏|「さる山」のいま
○公開|2022年1月30日まで|約100分
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=672

●金沢百枝|キリスト教美術をたのしむ18|雅歌|聖母マリアと相聞歌
○公開|2022年2月6日まで|約90分
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=673

●工芸と私14|井出幸亮+長田年伸+菅野康晴|「雑誌のデザイン」といま
○公開|2022年3月6日まで|約150分
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=707

●工芸と私15|豊永盛人+金沢百枝|人形劇「旧約ものがたり」
○公開|2022年3月21日まで|約90分
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=715

●大貫俊夫|中世ヨーロッパにまなぶ|ファクトとフィクション|全3回
○公開|2022年6月26日まで
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=750

写真は『工芸青花』9号より、古道具坂田の坂田和實さんから村上隆さんに贈られたコーヒーフィルター。〈坂田の選んだものを日本を代表する現代美術作家らによる美術作品と並列に展示することで、その存在を現代美術史の文脈において捉えようとする点で、画期的な視点が感じられる。端的に言って、村上氏でなければ成し得なかった、エクスペリメンタルかつ野心的な試みだと思う〉(井出幸亮「民藝とヒップホップの間に」『工芸青花』9号特集「村上隆と坂田和實」)
https://www.kogei-seika.jp/book/kogei-seika009.html





20211229

年明け1月から。回数がふえ、さらに充実した講座になりそうです。毎年ドラマがあります。

●講座|中村好文+増田奏|住宅設計入門|全8回|プロ教室+一般教室
○2022年1−8月@自由学園明日館(目白)
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=680
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=681
*プロ、一般教室ともに満席です

写真はスペイン、ビルバオ・グッゲンハイム美術館(フランク・ゲーリー設計。2点目はリチャード・セラ作品)。このところ休んでいますが、中村好文さんとは「意中の美術館」という不定期連載をつづけています。『工芸青花』10号より。
https://www.kogei-seika.jp/book/kogei-seika010.html







20211227

『工芸青花』の次号17号の束見本が届きました。次号から見返しに手漉和紙をつかいます。和紙作家ハタノワタルさんの紹介で森木ペーパーをたずね、今回は石州楮による石州和紙(島根県)に。機械漉きとはあきらかにことなるふぞろいな繊維が、手ざわりだけでなく眼にもやさしく、複雑で、みあきません。和紙についての若菜晃子さんのエッセイを附します。そして表紙の布は今回も45R製。いつものように心地よい生地。

●『工芸青花』17号
○2022年1月末−2月初旬刊
○A4判|カラー232頁|限定1200部|価格未定

特集
・奈良と骨董 無窮亭河瀬虎三郎
・タイの古陶 永田コレクション
・生活工芸と村上隆
連載
・ロベール・クートラスをめぐる断章群 堀江敏幸

*定期購読のお申込みはこちらから
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=4





20211226

公開しました。毎回とても好評でした。冬休みにどうぞ。

■通信講座|大貫俊夫|中世ヨーロッパにまなぶ|ファクトとフィクション|全3回
□公開|2021年12月24日-2022年6月26日
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=750

1|中世は「暗黒」か?
2|科学 vs 宗教
3|修道士の生活

大貫さんから......みなさんは中世ヨーロッパについてどのようなイメージをお持ちですか? 勇壮な騎士、ユーモラスなロマネスク美術から魅力的な時代だと思う人もいれば、暴力にあふれ不潔でキリスト教を盲信する時代と思う人もいるでしょう。本講座では、史料を一緒に読み解きながら、中世にまつわるファクトとフィクションの問題を考えていきます。

写真はスイス、シオンのノートルダム・ド・ヴァレール聖堂(12−14世紀)。『工芸青花』10号「スイスのロマネスク」特集より。
https://www.kogei-seika.jp/book/kogei-seika010.html





20211225

骨董通販サイト seikanet 公開中です(12月31日まで)。今回は「飾る・使うーハレの骨董」特集。
https://store.kogei-seika.jp/

波文皿、瑠璃釉重箱、やまと絵猿廻し図、時代独楽、螺鈿花文莨箱、貝合せ香合、梅に鶯文陶片、フランス鉄製コファ、鶴文漆皿など。追加出品もありました。どうぞよいお年を。





20211222

明日です。席すこしだけあります。

◎講座|金沢百枝|キリスト教美術をたのしむ73|新約篇2|降誕
○12月23日(木)18時半@自由学園明日館ホール(目白)
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=678

写真は金沢さんと取材したオランダのサンプラー(1697年)。『工芸青花』9号特集「少女の刺繡布」より。
https://www.kogei-seika.jp/book/kogei-seika009.html





20211221

豊永盛人作品の通信販売をはじめました。いずれも暮しをことほぐもの。クリスマスや新年にどうぞ。

◎豊永盛人の沖縄旧約聖書
https://www.kogei-seika.jp/shop/toyonaga_ot.html

豊永さんは沖縄在住の張り子作家です。琉球張り子の伝統にそくした仕事とともに、あらゆる矩(のり)をかるくこえてゆく作品群、その豊永印に魅了される人が多くいます。 今回御紹介するのは「旧約聖書」を主題とする作品です。アダムとエバ、ノア、ヤコブ、アブラハム……。美術史家の金沢百枝さんを導き手に、旧約を読みこんだ豊永さんが咲かせる、人類草創の物語の花々。 張り子だけではなく、木漆工とけしさんと制作した漆器、石川昌浩さんのガラスにエナメル彩色した器、メキシコのブリキ絵にヒントを得た平面作品など、さまざま御紹介します。











20211220

アメリカの納屋材(とフランスの水筒)。古道具坂田の坂田和實さんがえらんだ「板」。『工芸青花』5号「板と私」特集より。

『工芸青花』5号
https://www.kogei-seika.jp/book/kogei-seika005.html





20211218

骨董通販サイト seikanet 公開中です(12月31日まで)。今回は「飾る・使う─ハレの骨董」特集。千鳥蒔絵重箱、貝合せ香合、典礼装束図、歌仙絵、ミニアチュール婦人図、梅に鶯文陶片、李朝白磁、銀のカトラリー、螺鈿重箱など。多くの追加出品がありました。晴れやかです。
https://store.kogei-seika.jp/





20211217

公開しました。

◎通信講座|工芸と私15|豊永盛人+金沢百枝|人形劇「旧約ものがたり」
○公開|2021年12月17日-2022年3月21日/約90分
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=715

2018年は「沖縄ギリシア神話」展、今年は「沖縄旧約聖書」展。豊永作品は「沖縄化=豊永化」が鍵ですが、金沢さんの解説がその「化」の鍵をすこしあけています。







20211216

来週です。毎年、明日館(重文)の聖夜かざりもたのしみです。

■講座|金沢百枝|キリスト教美術をたのしむ73|新約篇2|降誕
□12月23日(木)18時半@自由学園明日館ホール(目白)
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=678

前回参加者のアンケートより。

〈すばらしい画像の数々に加えて、「受胎告知」そのものの変遷がよく分かって、次に美術館や教会にいくのが楽しみになって参りました〉
〈「new新約篇」は時間をかけてじっくりやっていくとの話を聞いて、愛知県から毎月通えるのかどうか? ためされているように感じました〉

写真は『工芸青花』15号より、ノブゴロド(ロシア)の聖ソフィア大聖堂のブロンズ扉(12世紀半ば)。右頁が「降誕」です。マリアの掛布団の文様など、ロマネスク的な「窮屈でないこまかさ」もみどころでした。
https://www.kogei-seika.jp/book/kogei-seika015.html





20211215

骨董通販サイト seikanet は本日19時公開です。テーマは「飾る・使う─ハレの骨董」。時節ですね。お気に入りがありますように。
https://store.kogei-seika.jp/

seikanet 監修者、古美術栗八の高木孝さんの連載「骨董入門」も更新しました。「骨董を売る」話。〈骨董を買ってもらわなければならない骨董屋が、処分(売却)する話ばかりで自分でも呆れるのですが、骨董は買ってお終いではなく、売ることもできるところに大きなメリットがあると思います〉
https://www.kogei-seika.jp/blog/takagi/020.html

挿図は仙厓シリーズ続篇。仙厓さんと高木さんの二人羽織のような文章も愉快です。





20211214

ロマネスク・アクセサリ|ベアトゥス写本|小鳥|ピンバッチ
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=455

ロマネスク・アクセサリ(ベアトゥス写本)は美術史家の金沢百枝さん監修、アクセサリ作家の佐藤祐子さん制作によるシリーズです。ベアトゥス写本はあざやかな色彩とのびやかな線の挿絵が魅惑的な中世の写本群です。原本はスペインの修道士ベアトゥスによる「ヨハネ黙示録」の註解書(776年)で、10−13世紀の彩飾写本約30冊が現存しています。そのうち『ウルジェイ・ベアトゥス』と『サン=スヴェール・ベアトゥス』より、モチーフを選びました。
https://www.kogei-seika.jp/shop/romanesque_accessory.html

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20211211

骨董通販サイト seikanet 公開中です(12月14日まで)。壺屋の盃、刺繍裂の聖母子、南米石板、伊万里猪口と油壺、源氏絵、李朝餅型など。追加出品もありました。
https://store.kogei-seika.jp/

今回の出品者(50音順)
#甍堂
#花徑
#膏肓社
#骨董いわた
#古美術栗八
#古美術りつ
#四方堂
#そらんじ
#道具屋広岡
#南方美術店
#ルクラシック
#montique





20211211

なかなか終らず、編集室からでられません。『工芸青花』の次号17号は過去最多の232頁になりました。
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=4





20211210

来年1月の展示です。

■展観|奈良と骨董:あをに
□2022年1月28日-2月1日@工芸青花(神楽坂)
□出品|小松義宜(honogra)
*1月28日は青花会員と御同伴者1名
https://www.kogei-seika.jp/gallery/20220101.html

『工芸青花』17号(2022年1月刊予定)では、玄人好みの眼利きとして名高い奈良の茶人、無窮亭河瀬虎三郎(1888-1971)の特集を組みました。旧宅、旧席、旧什等ぞんぶんに取材できたのは、古美術商・小松義宜さんのおかげです。17号刊を機に、青花の展示室でも、小松さんの御協力のもと奈良にゆかりの展観をおこないます。指物師・松田栄哉旧蔵の法隆寺古材を主に、弥生や土師器などの花器ほか数十点を展示販売します。

撮影|奥山晴日





20211209

好評につき品物追加しました。

■インドの刺繍とレース……美術史家・金沢百枝さんが紹介する刺繡布とレース。インドの女子修道院で作られたものです
https://www.kogei-seika.jp/shop/indian_fabrics.html

以下は昨春、日経夕刊に連載していた金沢さんのエッセイから、続・インドの思い出。

〈大道芸はときどきしかこない。七つ下の弟が生れるまでは、ひとりであそんでいた。いちばん好きだったのは泥あそびだ。裏庭にマンゴーの大木があり、くたびれた薔薇園や、奥には鬱蒼とした茂みもあった。その庭をのぞむバルコニーには、ながらくつかわれていないガーデンチェアとテーブル。バルコニーの床は大理石で、夏はつめたく、ペタリとすわると気持よかった。だれもこない、私だけの場所。ただひたすら土をこねていた。(略)ときおりスコールがふる。ふりはじめのときに土から立ちのぼる、あのふしぎなにおい。はげしい雨がやむと、こんどは草木から、むせかえるような独特のあまいにおいがする。泥でできた得体の知れないものをならべて、世界の変化をぼうぜんとながめていた〉

先月の展示、そして今週の講座でも、こうした(ふつうの)手仕事がふつうにある場所は世界からどんどんうしなわれていて、それはもうしかたない。よしあしでもない。たとえふつうではなくても(修道院もそうかもしれない。生活工芸も)のこってくれたほうがいい、という話をしました。





20211208

今年も季節になりました。明日館のツリーもたのしみです。金沢百枝さんの講座と通信講座、募集中です。

■講座|金沢百枝|キリスト教美術をたのしむ73|新約篇2|降誕
□2021年12月23日(木)18時半@自由学園明日館(目白)
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=678

■講座|金沢百枝|キリスト教美術をたのしむ74|新約篇3|東方三博士の礼拝
□2022年1月14日(金)18時半@自由学園明日館(目白)
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=705

■通信講座|金沢百枝|キリスト教美術をたのしむ16|旧約篇14|ダニエル書・ヨナ書|救済の預言者ダニエルとヨナ
□公開|2021年12月12日まで
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=639

■通信講座|金沢百枝|キリスト教美術をたのしむ17|旧約聖書の女性たち|ルツ、ユディト、スザンナほか
□公開|2021年12月26日まで
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=663

■通信講座|金沢百枝|キリスト教美術をたのしむ18|雅歌|聖母マリアと相聞歌
□公開|2022年2月6日まで
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=673

チマブーエによる聖フランチェスコの肖像と、受難伝のステンドグラス 13世紀 イタリア アッシジのサン・フランチェスコ聖堂
https://www.kogei-seika.jp/shop/romanesque_photo.html





20211207

公開しました。

■通信講座|工芸と私14|井出幸亮+長田年伸+菅野康晴|「雑誌のデザイン」といま
□公開|2021年12月6日-2022年3月6日/約150分
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=707

10月におこなった講座の録画です。以下はその日の参加者で、デザイン史の研究者である中村将大さんの感想です。ありがとうございます。

昨晩の講座、ありがとうございました。菅野さん、井出さん、長田さん、それぞれの仕事や編集者としてのスタンスは異なれども、通底する雑誌への愛情、情熱、そして課題意識があり、その相違点が浮き彫りになるとても刺激的な会でした。アンケートの感想を書けなかったので、不躾ながらメールにて失礼します。

今回の講座、テーマは「雑誌のデザイン」となっていました。さらにこれをより詳しく咀嚼すれば「2020年代の日本で雑誌をつくること。そしてそれはいかにデザインされるのか ?」という課題についての鼎談であったと、中村個人としては考えています。三者それぞれの背景、また携わる仕事の性格もあり、「雑誌」という解釈がわかれていたのが印象的でした。井出さんはグラフ誌(特に20世紀なかばのアメリカにおけるもの)の、長田さんは日本のモダンデザイン/モダンタイポグラフィの、そして菅野さんは書物としての系譜をふんでいるとみました。

雑誌のデザインを含む、ヴィジュアルコミュニケーションのデザインは、文章による言語コミュニケーション、図版による非言語コミュニケーションにより成立するといえますが、その解釈の差異が如実に出ていたのが興味深いものでした。基本的に井出さんは非言語情報によっており、それは図版主体であることはもちろん、テクストも図版的な扱いで処理する傾向にある。『サブシークエンス』においては紙面全体を非言語化しているようにみえますし、それはアメリカのグラフ誌の特徴そのものといっていいとおもいます。つまり混在させる「雑」さがあり、それゆえ視覚情報が複雑化するともいえる。

いっぽう菅野さんは言語情報と非言語情報を分けている。分けていることで、それぞれが内包する複雑性を受容できるようになっている。長田さんに関してはやはりデザイナー出身ゆえなのでしょうか、技術や(デザイン上の)システムで捉えられている傾向をみましたし、それゆえ金属活字から写真植字へのパラダイムシフトを強調されたようにもみえました。言われてみればDTPの時代以降は、金属活字や写真植字時代の再現をおこなっているようにもみえます。

1983年生まれの僕としては2002年の『ku:nel』創刊はリアルタイムで受けたカルチャーショックのひとつといえます(大袈裟ですが)。ここでの有山達也さんの仕事は確かに日本の雑誌デザインを、それ「以前」と「以後」に分けるものがありました。白地・余白を大きくとり、しっかりとテクストを読ませるためのフォーマット、大きくあつかわれた写真——それ以前の主流だった、抽象的な背景をもつ写真ではなく、周辺の風景(つまりそれ以前はノイズとして捉えられていた)をふくめ、日常の一瞬を切り取るようなもの——は、極端にいえばデザインの不在を感じさせるような「ふつう」のデザインといえましたし、実際『ku:nel』以降、雑誌全体のデザインがずいぶんとすっきりとした傾向になったのは実感としてあります(中村個人としては、これによりその後、日本語版『KINFORK』を受け入れる土壌ができていたとも考えますし、傾向はことなれども『KINFORK』もまた、『工芸青花』同様、金属活字的な構造をもっているようにみえます)。

昨晩、菅野さんがご指摘されていた、『ku:nel』は近代以降、日本の雑誌文化にあった「アメリカ発のグラフ誌」の系譜と、「杉浦康平らによるモダンデザイン/モダンタイポグラフィ」の系譜のハイブリットであるという指摘は、まさにそうだったよな……と納得させられました。それゆえアメリカのグラフ誌にずっと通底していたヨーロッパ的な(バウハウス的な)近代デザイン的なる構造が浮き彫りになるのですが。

また昨日のキーワードのひとつは「日本語組版がもつ固有の濃度」にもあるでしょう。井出さんが見出しなどに欧文を採用する理由のひとつに、ラテンアルファベットのみの均質な質感という話がありました。これは多くのデザイナーや編集者が同意することかもしれません。事実、日本語は中国由来の漢字、それが崩れた平仮名と片仮名、くわえて欧文などが混じる複雑な言語です。そのため、漢字は漢字の、平仮名は平仮名の、片仮名は片仮名の、欧文は欧文のそれぞれの質感と濃度が混ざることになる。モダンデザイン/モダンタイポグラフィにおいては、その工業的な精緻さを求める性格ゆえか、組版時の濃度ムラを避ける傾向にありますから、日本語はかなり不向きな言語であるといえます(そもそも複数の言語が当たり前に混ざるという事例が他にない)。

その解決は、歴代のデザイナーたちによりいくつか試みられていますし、それこそが日本のモダンデザインともいえるはずです。杉浦康平は写真植字の恩恵のなか「ツメ組み」を試み、正方形の枠におさめられていた和文を、それぞれの字形にあわせツメて調整することで、組版全体の濃度を均質化させています。またグラフ誌以降、極端に小さなサイズの本文組みが主流になりますが、それもまた濃度・質感をそろえるための工夫といえます。

しかし、これらは西洋のモダンデザイン/モダンタイポグラフィの質感に近づくことにはなりますが、同時に日本語固有のリズムを破壊することにもなります。菅野さんが『工芸青花』において縦組・日本語表記にこだわるのは、そうした日本語固有の視覚表現やリズムを大事にするという意識の表れであり、共感をおぼえました。新潮社という企業の性質もあるのでしょう。書き手や作家、編集者、校正者が一体となり文章を形成し、最適化してゆくプロセスを長年目にされていたことの結果なのだと想像します。

それは金属活字時代の「うつし」のようにもみえましたし、金属活字時代の書物にあった、テクストと図版を分けることでそれぞれの複雑性に読者が入ってゆけるという特性の再発見ではないでしょうか。これはマックス・ビルとヤン・チヒョルトのタイポグラフィ論争を想起します。あらかじめ具体的な像を描くのか、それとも読者に具体的な像を描かせるのか。そうした発信側の姿勢のちがいを意識しました。

余談ですが、日本語組版の濃度については以前、中村も自身の講座で触れたことがあります。僕個人、デザイン畑の人間ではありますが、いわゆる「デザイナーの組版」はすこし苦手です。精興社が組版した新潮社や岩波文庫、みすず書房のベタ組みの書籍がいいなとおもうので、そうした意味ではグラフィックデザインというよりも、いち読者として組版を捉えているのでしょう。そういえば谷崎潤一郎が自身で装丁した『盲目物語』があります。平仮名がおおく、句読点が極端に少ない文体ですが、濃度に抑揚のある組版のため違和感なく読めるものでした。反対に文庫本などではよみづらい。近代の作家による活字組版は、もう少しデザインの視点でも検証されていいとおもいます。

『工芸青花』も『サブシークエンス』もインデペンデントな雑誌と称されていたのも印象的でした。そもそも雑誌はインデペンデント性を内包していたのではないかともおもいます。たとえば民藝運動の『工藝』、柳がいた『白樺』もそうですし、同時期のイギリスのタイポグラフィ運動『フラーロン』に、その界隈にいたフランシス・メネルによる『ザ・ナンサッチ・プレス』、エリック・ギルによる『ゴールデンコッカレルプレス』、ほかにも北園克衛による『VOU』など——そしてそれらの意識の根底にあるであろう、ウィリアム・モリスによるケルムスコット・プレスに象徴されるプライヴェート・プレス運動など——歴史をつくった雑誌をみれば、インデペンデントな性格を多分に含んでいたことを再認識させられました。近代の情報流通において、雑誌の役割は大衆化しましたが、ここに来て時代が出版を淘汰するなか、そうした原型にもどっているところもあるのかもしれないと考えていました。

ありがとうございました。長々と失礼しました。今後もたのしみにしております。(中村将大)







20211206

骨董通販サイト seikanet 公開中です(12月14日まで)。
https://store.kogei-seika.jp/

サイトの画像をタップすると、別カットや作品解説のページになります。おたのしみいただけましたら幸いです。

今回の出品者(50音順)
#甍堂
#花徑
#膏肓社
#骨董いわた
#古美術栗八
#古美術りつ
#四方堂
#そらんじ
#道具屋広岡
#南方美術店
#ルクラシック
#montique





20211204

美術史家・金沢百枝さんが紹介する刺繡布とレース。インドの女子修道院でつくられたものです。
https://www.kogei-seika.jp/shop/indian_fabrics.html

彼女がインドで暮していたころの話をきくのがとても好きです。以下は昨年、日経夕刊で連載していた金沢さんのエッセイから。

〈両親が留守のあいだ、おさない私のたのしみは大道芸だった。ふだんは市場など人があつまる場所で芸を披露するのだが、ときどき住宅街もめぐる。母がいないと乳母にたのみ、家にきてもらった。蛇つかい、熊まわし、駱駝乗り。(略)最高だったのは駱駝で、家の玄関まで駱駝乗りがやってきて、たのむと住宅街をひとまわりしてくれる。ひざまずいた駱駝が立ちあがるとき、大きくゆれるのがすこしこわかったが、駱駝乗りのおじさんの背につかまり、高々としたところから街をみおろせるのがうれしくて、「駱駝乗らんかね〜」の声がきこえるたびに乳母にせがんだ〉





20211202

来週です。工藝風向の高木崇雄さんも参加してくれます。

■講座|工芸と私56|小林和人+山内彩子|工芸店と画廊のいま
□12月7日(火)19時@工芸青花(神楽坂)
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=676

作り手、売り手、使い手の方々と、「工芸」のことを考えるシリーズです。今回は、代々木上原と吉祥寺で工芸店をいとなむ小林和人さんと、麻布台で画廊をつづける山内彩子さんのお話です。小林さんは工芸店主としてはめずらしく、概念づくり(あらたな価値の創出)をこころがけているように思います。いっぽう山内さんはいまどき稀有なことに、SNSもオンラインショップもやらずにいながら作家と顧客の信頼が篤く、着実な運営をはたしています。前半は山内さん、後半に小林さんのお話をうかがいます。

小林さんから……昨年の4月、緊急事態宣言の発令により1ヶ月のあいだ二つの店を休業するという、店舗の移転の際にすら経験をしなかった試練に直面しました。その期間は、却って時間に余裕が生まれ、立ち止まって物事を見つめ直し、「作用」について深く考える時間が得られ……という筈もなく、現実には食事と睡眠の時間以外の殆どを、支払いの資金捻出に充てていました(具体的にはオンラインストアの立ち上げと登録作業、公庫への融資依頼、雇用調整助成金の手続き、等々)。痛感したのは、「作用」がどうこうなどと考えることが出来るのは、あくまでも生命維持に必要不可欠の機能が最低限整った上ではないかという事です。実際に頭の中を大きく占めていたのは、お金(つまり機能)をどうするかという問題でした。ただ同時に(反対のことを言う様ですが)、OUTBOUNDの空間に並ぶ品々がもたらす作用によって気晴らしが生まれ、どうにか正気を保てたのではないかとも一方で思うのです。店を運営する他の方々はどうだったのか、今更ながら気になっています。色々な議題を共有する間柄であるGallery SUの山内彩子さんに、そのあたりの事などをお聞きしたいと考えております。

山内さんから……Gallery SUを開いて、今年の10月で丸11年が経ちました。2010年からの11年間というのは、未曾有の災害が続き、デジタル化は加速し、社会が大きく変動した歳月でした。ギャラリーという浮世離れした(と思われている)場所にいても、様々な変化の影響は受けざるを得ず、そのなかで自分は何を守っていくべきなのか、抗わなければならないものは何か、自問自答しつつ歩んできました。OUTBOUNDの小林和人さんは、年齢も開店した年も、ちょうど2歳先輩です。お互いのこの十数年の歩みを振り返りつつ、これからのギャラリーのあり方を考える機会となればと思います。

写真は2017年刊『工芸青花』7号「生活工芸と作用」特集より「作用」のページ。小林さんと山内さんの対談「作用とはなにか」を収録しています。







20211201

骨董通販サイト seikanet は本日19時公開です。テーマは「自由」。
https://store.kogei-seika.jp/

seikanet 監修者、古美術栗八の高木孝さんの連載「骨董入門」も更新しました。「骨董病」の続篇。金策の話です(大事です)。写真は仙厓の老子図。〈そうなんです。仙厓さんの絵はヘタウマではなかったのです。普通に書も絵も上手い(もっと云えば、白隠さんよりだいぶ上手い)お坊さんだったのです〉
https://www.kogei-seika.jp/blog/takagi/019.html




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